小菅努の商品アナリスト日記

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フーシ派

米金利上昇でも高止まりする金相場、地政学リスクのサポートが効いている

【金】
米長期金利の上昇が続いていますが、金相場は2,000ドル台を維持しています。

無題
COMEX金先物相場(日足)

11日は良好な新規失業保険申請件数が更に米長期金利を押し上げましたが、金相場は逆に反発しました。地政学リスクの影響が指摘されていますが、2,000ドル割れには抵抗を示した格好です。

米新規失業保険申請件数、18万7000件に減少-2022年9月以来の低水準
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-01-18/S7GLPTT1UM0W00

現在の地政学リスクの中心にあるのは、紅海におけるフーシ派の船舶攻撃に伴う海運の混乱です。米国は船舶保護だけでは対応が難しいと判断し、イエメンに対する直接攻撃に踏み切っています。米金利上昇に上値を圧迫されつつも、地政学リスクの高まりに伴う不確実性から、売り込むことには躊躇がみられます。

米軍、新たにフーシ派ミサイルに攻撃 国防総省「純粋な自衛」


また、北朝鮮情勢も緊迫化しています。朝鮮半島有事のリスクを金相場が積極的に織り込んでいるかと言えば疑問ですが、注意が必要な状況になっています。

朝鮮 国営テレビの地図表示 “朝鮮半島北側のみ強調”に変更

【速報】北朝鮮は、水中核兵器システムの試験を日本海で行ったと発表した
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024011900543&g=flash#goog_rewarded

米国のインテリジェンス部門からも、事態の急変に懸念が表明されています。

北朝鮮の脅威、「劇的に」変化の可能性 ロシアとの協力で=米高官
https://jp.reuters.com/world/security/G73BVIKWAJKE7HO2FIQ4XCO7RQ-2024-01-18/

「北朝鮮とロシアの前例にない協力によって、北朝鮮が及ぼす安全保障上の脅威が今後10年間で「劇的に」変化する可能性がある」

米金利上昇局面でも、簡単に金相場が値を崩す環境にはないでしょう。地政学リスクに対応できる数少ない資産クラスが金になっています。


イランが石油タンカーを拿捕、米英はフーシ派に直接攻撃開始

【原油】
イラン海軍は、オマーン沖で石油タンカーを拿捕しました。イスラエル=ハマスの戦争が始まってから、石油タンカーが攻撃や拿捕の対象になったのはこれがおそらく初の事例になります。

イランが石油タンカー拿捕、オマーン沖 米への報復=国営通信

拿捕されたのは「セント・ニコラス」号で、イラク産原油をトルコ向けに輸送する途中でした。イランは、「米国の対イラン制裁に対する報復措置」と説明していますが、どういうことでしょうか。

この「セント・ニコラス」号はかつての船名が「スエズ・ラジャン」であり、2023年4月にイラン産原油を中東に輸送中に米軍によって拿捕され、イラン側の理解だとイスラエルロビーの活動によって98万バレル以上の原油を没収された際に使用された船舶です。イランとしては、この同じ船舶を拿捕することで、米国に奪われた原油を取り戻したとの理解でになります。



ただし、イエメンの武装組織フーシ派が紅海で船舶に対する攻撃を続ける中、海上交通の妨害であることは間違いなく、これが直接的なきっかけかは分かりませんが、米英はフーシ派の関連施設に対する直接攻撃に踏み切りました。

米英がフーシ派拠点を空爆、商船襲撃に対抗-中東で緊張拡大の恐れ

これまでも米海軍は、フーシ派のドローンやミサイル攻撃の妨害は行っていましたが、ついに直接攻撃に踏み切りました。イスラエル=ハマス紛争の拡散を警戒してフーシ派に対しては慎重な対応を続けていましたが、もはや許容ラインを超えたということでしょう。



フーシ派、報復の可能性 イランが支援、反イスラエル鮮明
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024011201010&g=int

フーシ派は当然に報復を警告しており、イランがどの程度の関与を見せるのかによって、今後の中東情勢は大きく揺れ動きます。サウジアラビアとフーシ派の休戦合意への影響も懸念されています。

「需要不安」と「供給不安」との狭間で揺れ動く原油相場にとっては、「供給不安」のレベルを引き上げる動きとの評価が求められます。原油生産には影響が生じていないために一気に急伸する環境にもありませんが、下げづらくなったこと、突発的な急伸リスクが高まったことは確かでしょう。

無題
NYMEX原油先物相場(日足)


地政学リスクに下値を支えられる原油相場

【原油】
年初の原油相場は強含みで推移しています。NYMEX原油先物相場は年末の1バレル=71.65ドルに対して73.37ドルでの取引になっています。年末・年始にウクライナと中東の双方で戦闘が激化しており、特に中東の地政学リスクが織り込まれている模様です。

イラン、紅海に駆逐艦派遣-米軍によるフーシ派ボート攻撃後

2023年末にかけては一部海運会社が紅海やスエズ運河の航行を正常化する動きが上値を圧迫していましたが、治安維持に当たっていた米海軍が武装組織フーシ派のボートを攻撃し、イランが紅海に軍艦を派遣するなど再び緊張感が高まっています。

「マースクは状況を把握するため、紅海での全ての輸送を48時間停止した」

参考:スエズ運河の航行再開、海運会社の判断割れるも原油は売り反応

この状況では、船舶航行の再開が難しくなります。原油市場の目線では、こうした地域の不安定化に大国イランの名前が見え隠れし始めていることが緊張感を高めています。イスラエル=ハマスの戦闘が、地域紛争に発展するリスクが警戒されています。

無題
NYMEX原油先物相場(5分足)


【お知らせ】
大阪取引所のウェビナーの動画がYoututeで公開されました。12/16(土)開催分です。金、原油、トウモロコシ相場について、初心者向けの内容で構成しています。よろしければご覧ください。

コモディティ ・ マーケットの分析と2024年の展望
https://www.youtube.com/watch?v=auB2uLG2yDM

 

BPが紅海のタンカー運航を全面停止、どうみる原油価格への影響

【エネルギー】
英BPが12月18日、紅海のタンカー運航を一時的に全面停止すると発表したことを受けて、原油相場が安値から切り返しています。

英BP、紅海を通過する全運航を一時停止 フーシ派の攻撃で
https://jp.reuters.com/world/mideast/BLXIDV3DQZOUPHEJ54QMQXIF3A-2023-12-18/

紅海の運航を停止するということは、自動的に「紅海=スエズ運河=地中海」の海上輸送ルートが断絶することを意味します。つまり、中東から欧州に向かうエネルギー供給に対するリスクとしての評価が求められています。

もちろん、エネルギー輸送ルートは「紅海=スエズ運河=地中海」に限定されませんので、現実的には「中東=喜望峰=欧州」というスエズ運河が建設される前の伝統的な輸送ルートを使うことになります。

具体的にどの程度のインパクトがあるのでしょうか?

海運業界、遠回りルート数週間迫られる事態に備え-紅海での混乱悪化

「海運各社は遠回りのアフリカ周回航路での運航を進めている。1回の航海に100万ドル(約1億4400億円)のコストと7-10日の日数が余分にかかる。」だそうです。中東と欧州の距離が広がりましたね。

そして、こうした混乱がいつまで続くのかと言えば、「うまくいけば数日または数週間で収まるかもしれないが、当然ながらもっと時間がかかる場合を想定したシナリオもある」(コンテナ船海運会社ハパックロイド)だそうで、分かりません。

フーシ派幹部、紅海で攻撃続けると表明 米主導の有志連合に対抗
https://jp.reuters.com/world/security/DHGSYAFFKZKBVE7Q3JRYZ7ZH2U-2023-12-19/

フーシ派の声明=「イスラエルの侵略が終わり、ガザ地区の包囲が解除されるまで、パレスチナ人を支援する」から考えると、停戦合意の実現までは少なくとも混乱状況が続くとみておく必要がありそうです。

もっとも、今回のイベントは「生産トラブル」ではなく「輸送トラブル」です。さすがに欧州地区で原油や天然ガス在庫がタイト化していれば、新たな原油・天然ガスが到着するまでのタイムラグ(7~10日間)の需給が混乱しますが、現状だとその可能性は低そうです。ショックは一時的ではないでしょうか? これまで売り込まれていたため、クリスマス前のショートカバー(買い戻し)のきっかけの一つといった評価で良いでしょう。

紅海の原油輸送混乱、価格に大きく影響せず=ゴールドマン

ゴールドマン・サックスもそのような評価を下しているようです。

「紅海における石油や天然ガス輸送の混乱がエネルギー価格に大きく影響することはないとの見方を示した」


【金】
この件は、地政学リスクとして金価格にも影響を及ぼしています。

1)地政学リスク
2)サプライチェーン=世界経済成長へのリスク
3)インフレリスク

といった視点です。

3)のインフレリスクについては、利上げ終了議論にブレーキを掛けるという意味で単純にポジティブ材料と言えませんが、全体として強気のメッセージを受け止めています。今後の展開は継続的に監視しておく必要がありそうです。

今日はYoutube動画「Weekly Gold」の収録も行いました。毎年恒例の10大ニュース形式で今年の金市場を振り返っています。よろしければご覧ください。

【ひろこのウィークリーゴールド】 
<コモディティアナリスト小菅努が選ぶ!> 『2023年ゴールド10大ニュース』 
https://youtu.be/ggo3kcE7404

この動画収録と前後して、今日はゴム報知新聞の新年号の原稿も書きました。購読されている方、お楽しみに。


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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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