小菅努の商品アナリスト日記

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タンカー

スエズ運河の航行再開、海運会社の判断割れるも原油は売り反応

【原油】
原油相場が軟化しています。紅海における貨物船の運航再開の動きを受けて、原油供給不安が緩和されているためです。

マースク、アジア─欧州航路の大半をスエズ運河経由で計画
https://jp.reuters.com/business/RZOURWD4MVI5ZHXS35O5WPAPHU-2023-12-28/

デンマークの海運大手マークスは、コンテナ船の大半をスエズ運河経由として、喜望峰沖のルート使用は少数に留める計画としています。

イエメンの武装組織フーシ派の船舶に対する攻撃は続いています。このため海運各社も対応が割れていますが、マークスは米国など多国籍部隊が商船保護の取り組みを本格化させているため、リスクコントロールが可能との判断に傾いた模様です。

米軍、紅海でフーシ派発射の無人機とミサイルを撃墜

ドローンやミサイル攻撃から広範囲に展開する商船を保護するのは容易ではないとみられますが、本当に航行再開でも問題がないのかを見極めるフェーズになります。ただし、もともと原油輸送障害を受けての原油買いの規模は限定的だったため、スエズ運河の航行再開が本格化しても、原油相場に対する影響は軽微でしょう。年末に向けて最近の反発に対する調整売りをうながすきっかけに留まる見通しです。

問題は、この先の明確な相場テーマを欠いていることです。中東情勢が緊迫化しつつあることを材料視するのか、年明け後に石油輸出国機構(OPEC)の自主減産が始まることを材料視するのか、それとも再び需要不安を織り込むのか、気迷いムードから不安定な値動きが続きそうです。ただし、米原油在庫の減少傾向が止まりつつあることを考慮すると、下値不安は大きくないでしょう。

無題
NYMEX原油先物相場(日足)


【穀物】
ウクライナ当局によると、黒海でパナマ船籍のバルク船が機雷に衝突し、2人が負傷しました。

黒海で貨物船が機雷に触れ爆発、2人負傷=ウクライナ

詳細は分かりませんが、ドナウ川経由の輸送は7月にロシアが黒海イニシアティブから離脱して以降に活用されている代替ルートであり、これまで使用してこなかったルートを使ったのか、新たに機雷が設置されたかしか考えられません。



いずれにしても年末を前にウクライナとロシアとの戦闘が激化しているだけに、この種の動きに対して小麦相場は敏感に反応し始めています。ロシアとウクライナの穀物輸出能力が活用できなければ、小麦を筆頭にとうもろこし、植物油相場などにリスクプレミアム加算の余地が拡大します。

無題
CBOT小麦先物相場(日足)


 【お知らせ】
大阪取引所のウェビナーの動画がYoututeで公開されました。12/16(土)開催分です。金、原油、トウモロコシ相場について、初心者向けの内容で構成しています。よろしければご覧ください。

コモディティ ・ マーケットの分析と2024年の展望
https://www.youtube.com/watch?v=auB2uLG2yDM


BPが紅海のタンカー運航を全面停止、どうみる原油価格への影響

【エネルギー】
英BPが12月18日、紅海のタンカー運航を一時的に全面停止すると発表したことを受けて、原油相場が安値から切り返しています。

英BP、紅海を通過する全運航を一時停止 フーシ派の攻撃で
https://jp.reuters.com/world/mideast/BLXIDV3DQZOUPHEJ54QMQXIF3A-2023-12-18/

紅海の運航を停止するということは、自動的に「紅海=スエズ運河=地中海」の海上輸送ルートが断絶することを意味します。つまり、中東から欧州に向かうエネルギー供給に対するリスクとしての評価が求められています。

もちろん、エネルギー輸送ルートは「紅海=スエズ運河=地中海」に限定されませんので、現実的には「中東=喜望峰=欧州」というスエズ運河が建設される前の伝統的な輸送ルートを使うことになります。

具体的にどの程度のインパクトがあるのでしょうか?

海運業界、遠回りルート数週間迫られる事態に備え-紅海での混乱悪化

「海運各社は遠回りのアフリカ周回航路での運航を進めている。1回の航海に100万ドル(約1億4400億円)のコストと7-10日の日数が余分にかかる。」だそうです。中東と欧州の距離が広がりましたね。

そして、こうした混乱がいつまで続くのかと言えば、「うまくいけば数日または数週間で収まるかもしれないが、当然ながらもっと時間がかかる場合を想定したシナリオもある」(コンテナ船海運会社ハパックロイド)だそうで、分かりません。

フーシ派幹部、紅海で攻撃続けると表明 米主導の有志連合に対抗
https://jp.reuters.com/world/security/DHGSYAFFKZKBVE7Q3JRYZ7ZH2U-2023-12-19/

フーシ派の声明=「イスラエルの侵略が終わり、ガザ地区の包囲が解除されるまで、パレスチナ人を支援する」から考えると、停戦合意の実現までは少なくとも混乱状況が続くとみておく必要がありそうです。

もっとも、今回のイベントは「生産トラブル」ではなく「輸送トラブル」です。さすがに欧州地区で原油や天然ガス在庫がタイト化していれば、新たな原油・天然ガスが到着するまでのタイムラグ(7~10日間)の需給が混乱しますが、現状だとその可能性は低そうです。ショックは一時的ではないでしょうか? これまで売り込まれていたため、クリスマス前のショートカバー(買い戻し)のきっかけの一つといった評価で良いでしょう。

紅海の原油輸送混乱、価格に大きく影響せず=ゴールドマン

ゴールドマン・サックスもそのような評価を下しているようです。

「紅海における石油や天然ガス輸送の混乱がエネルギー価格に大きく影響することはないとの見方を示した」


【金】
この件は、地政学リスクとして金価格にも影響を及ぼしています。

1)地政学リスク
2)サプライチェーン=世界経済成長へのリスク
3)インフレリスク

といった視点です。

3)のインフレリスクについては、利上げ終了議論にブレーキを掛けるという意味で単純にポジティブ材料と言えませんが、全体として強気のメッセージを受け止めています。今後の展開は継続的に監視しておく必要がありそうです。

今日はYoutube動画「Weekly Gold」の収録も行いました。毎年恒例の10大ニュース形式で今年の金市場を振り返っています。よろしければご覧ください。

【ひろこのウィークリーゴールド】 
<コモディティアナリスト小菅努が選ぶ!> 『2023年ゴールド10大ニュース』 
https://youtu.be/ggo3kcE7404

この動画収録と前後して、今日はゴム報知新聞の新年号の原稿も書きました。購読されている方、お楽しみに。


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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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