ワクチン開発への期待で原油高
実際の需要改善には時間必要

NY原油先物相場は、1バレル=45ドルの節目を突破し、3月上旬以来の高値を更新している。11月上旬には、欧米で新型コロナウイルスの感染被害が拡大していることが強く警戒され、一時33.64ドルまで急落していたが、そこから10ドル超の反発が実現している。背景にあるのは、新型コロナウイルスのワクチン開発の動きである。11月9日に米ファイザーが有効率90%を超えるワクチン開発に成功したと発表したが、その後は米モデルナ、英アストラゼネカもワクチン開発の成功を報告している。既に米食品意欲品局(FDA)に対する緊急使用許可の申請手続きに入っており、マーケットでは早ければ12月中旬にも使用許可が下り、年内には医療関係者や高齢者を対象とした一般接種が開始されるとの見方を強めている。

今年の原油市場は、コロナ禍で人の移動が制限されたことが需要の急減を招き、原油価格は4月に一時マイナス価格を記録するなど不安定化した。その後は石油輸出国機構(OPEC)プラスの政策調整もあって40ドル水準まで切り返したが、約5カ月にわたって40ドル水準で方向性を欠く展開が続いていた。しかし、ワクチン開発に成功すれば、少なくとも2021年にもロックダウン(都市封鎖)などの行動規制が続き、自動車や飛行機などの輸送機器用エネルギー需要が大きく落ち込むリスクは限定されることになる。21年中に19年の需要規模を回復するとは予想されていないが、需要環境のV字型回復を現実的なシナリオとして設定できる状況に変わっていることが、原油相場を強く刺激している。株式相場はもちろん、銅相場など景気動向に敏感なコモディティ価格が軒並み急伸している。原油市場にとって、ワクチンは需給・価格環境の「ゲーム・チェンジャー」になり得る存在である。

問題は、足元では依然として厳しい感染状態が報告されていることだ。欧米では新規感染者、死者が急増しており、行動規制の強化が進んでいる。クリスマスまでに日常生活を取り戻すことが目指されているが、特に米国では日常生活が危ぶまれる状況になっている。企業活動の萎縮で再び失業者が増加し始めており、原油需要に対しても下方修正圧力が強まり易くなっている。国際エネルギー機関(IEA)やOPECは11月月報で需要見通しの下方修正に踏み切ったが、追加下方修正が必要との見方も強い。

OPECプラスは年明け後に予定されていた減産規模縮小(=増産)を先送りする方向で調整を進めており、原油価格が上昇しているものの極めて強い危機感を示している。IEAは、ワクチンが石油需要環境の改善を促すのは21年後半以降になるとの慎重な見方を示している。

 マーケットは期待先行で価格高騰を進めているが、現実の需給環境が45ドル、50ドルといった価格水準を正当化するためには、多くの時間が要求されることになる。

(2020/11/26執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年11月30日「私の相場観」

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