リスクオン化で金が急落
安全資産の下げは一時的か

投資家のリスク選好性が高まっている。10月10~11日に合意された米中通商協議について、合意文書に署名するための詰めの協議が行われているが、従来想定されていたよりも踏み込んだ内容になる可能性が浮上しているためだ。10月時点では追加関税の発動を停止する貿易戦争の「停戦」が議論されていたが、11月入りしてからは中国が制裁・報復関税の段階的な撤廃で合意したと発表しており、貿易戦争が一気に「終戦」に向かう可能性が浮上しているためだ。トランプ米大統領は関税撤廃の合意を否定しているが、米中両国の首脳が合意文書に署名する時期が近づいているとの見方が、投資環境のリスクオン傾向を加速させている。

米国株は過去最高値を更新しており、米経済成長や企業業績の伸び鈍化が目立つ中でも、株高傾向は維持されていることが再確認されている。米連邦準備制度理事会(FRB)は当面の利下げ対応が終了した可能性を強く示唆しているが、世界的な低金利環境が長期化するとの見方もあって、株式市場に対する投機資金の流入傾向が強くなっている。また、原油や銅などの産業用素材市況も底固さを見せており、米中通商合意による経済見通しの改善期待が各種資産価格に反映されている。

一方、安全資産は逆に大きく売られており、金や米国債、円などは上値の重さが目立っている。NY金相場の場合だと、9月には1オンス=1550ドル水準まで値上がりしていたが、11月上旬には1400ドル台中盤まで値下がりしている。米中貿易戦争、FRBの利下げサイクルなどと歩調を合わせて急伸してきたが、短期筋の利食い売りが膨らんでいる模様だ。金上場投資信託(ETF)市場でも売却圧力が目立つ状況にある。

問題は、米中通商合意で金相場が本格的なダウントレンドに突入するのか、それとも一時的な調整安に留まるかである。この点については、調整安との評価が基本になろう。米中通商合意が大きな変化であることは間違いないが、世界経済の減速傾向に修正を迫るのは難しい。各国中央銀行は大規模な金融緩和策を展開しているが、その傾向にも変化は生じないだろう。

しかも、利下げ余地の乏しさから財政出動拡大の必要性が高まっているが、債務の膨張は金価格の上昇圧力に直結することになる。特に、米国ではトランプ政権下で債務水準が著しく拡大しており、この状況で金市場から本格的な資金流出が促される可能性は低い。

株価高騰はネガティブだが、その株式相場の過熱感が高まっていることも、金市場に対する投資ニーズを高めることになる。低ボラティティ環境を前提としたリスクオンのポジションが著しく拡大しており、昨年2月に発生した「ボラティリティ・ショック」の再発も警戒される状況にある。短期筋の買い玉整理が一巡すれば、徐々に値固めを再開し、1500ドル台を回復する程度のエネルギーはあろう。(2019/11/14執筆)

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2019年11月18日「私の相場観」

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