米中「合意」でも金価格は上昇
世界経済の減速は止まらない

10月10~11日に行われた米中通商協議の閣僚級会合では、トランプ米大統領の言う「第一段階の合意」が成立した。詳細な情報開示は行われていないが、中国側が米国産農産物の購入拡大、知的財産権の保護、技術強要移転問題への対応、為替市場の柔軟性といった分野で譲歩を見せ、米国側は10月15日に予定されていた対中関税引き上げを見送ることになった。まだ12月の対中関税引き上げを回避できるのかなど幾つかの論点が残されているが、今後数週間を掛けて詳細を詰め、11月16~17日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談の際に、トランプ大統領と習近平・中国国家主席が合意文書に署名することを目指すことになる。

この結果についてマーケットの評価は割れているが、過去の通商協議とは異なり幾つかの個別項目について「合意」が形成されたことは、大きな進歩と評価できる。米中協議の度に米国と中国とは制裁・報復関税を強化し続けてきたが、漸く米中関係の悪化傾向に歯止めを掛ける目途が立ち始めている。トランプ政権の対中スタンスに大きな変化が生じている訳ではないが、米実体経済に減速の兆候がみられること、2020年の大統領選挙に向けて目に見える「外交成果」を欲していることが、今回の合意形成を後押しした模様だ。

ただ、これによって既存の制裁・報復関税の撤回といった議論が進む訳ではなく、ファーウェイ(中華技術)などハイテク企業に対する制裁緩和・解除についても議題に上がるレベルに到達していない。これからトランプ大統領の関心は大統領選のみに集中することになり、今後1年にわたって通商協議は膠着化に向かう可能性が高い。中国政府としても、大統領選で民主党候補が勝利する可能性もある以上、敢えてトランプ政権との間で厳しい条件の合意形成を目指す必要性は乏しくなる。このまま米中両国が制裁・報復関税の影響を受け続ける状況が続くことになろう。

このため、米中通商「合意」でマクロ経済環境が大きく変わることはない。マインドに対するポジティブな効果は認められるが、実際には米中の「新冷戦」とも言われる対立構造はそのまま維持されることになる。既に米経済は製造業から非製造業へと減速圧力が波及し始めており、更に労働市場や個人消費環境でも下振れリスクが高まっている。国際通貨基金(IMF)は2019年の世界経済成長見通しを7月時点の3.2%から3.0%まで引き下げたが、景気リスクバランスは下向きに傾斜した状態が解消されない見通し。

米連邦準備制度理事会(FRB)は今年に入ってから既に2回の利下げに踏み切っているが、10月29~30日の会合で更に利下げに踏み切る可能性もある。また、バランスシートの拡大も議論される見通しであり、量的緩和政策は意図していないとされるものの、現実には緩和効果を発生させることになる。安全資産としての金に対する投資ニーズには、今回の「合意」によって何ら変化は生じないだろう。
(2019/10/17執筆)

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2019年10月21日「私の相場観」

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