金価格が上昇再開を打診中
金ETFは6年ぶり高水準
金相場が改めて騰勢を強め始めている。基調転換のきっかけの一つになったのは、中東情勢の不安定化だ。9月14日にサウジアラビアの石油施設が攻撃を受け、世界の原油供給の約5%が一時中断した。原油供給障害については比較的早いペースで解消に向かっており、9月中には完全復旧が実現する見通しになっている。このため、急騰していた原油相場は急反落に転じており、概ねサウジ石油施設が攻撃を受ける前の値位置に回帰しつつある。一方で、この攻撃はイエメンの反政府武装組織フーシ派が犯行声明を出しているものの、サウジの隣国であるイランの関与が強く疑われている。英仏独の欧州3カ国は、攻撃はイランによるものだとして、同国を批判する共同声明を出している。サウジもイランの犯行だとして、報復攻撃の必要性を訴えている。現段階では、トランプ米大統領が軍事報復には慎重姿勢を崩していないが、24日には国連総会の演説でイランを強くしており、中東で大規模な戦争行為が発生するのではないかとの警戒感が金需要を喚起している。
一方、米下院はトランプ大統領の弾劾に向けた正式な調査の開始を発表した。大統領選でライバル視されている民主党のバイデン前副大統領とその息子を巡る醜態を調査するように、ウクライナのゼレンスキー大統領に圧力を掛けた疑惑がある。この調査の見返りに保留中の軍事的な支援を行った疑いもある。米下院では民主党が多数派のため、罷免に向けて上院で弾劾裁判を開くための弾劾訴追が成立する可能性がある。罷免には共和党が多数を握る上院で3分の2以上の賛成を得る必要があるため、実際に罷免が成立するとみている向きは多くない。しかし、これによって大統領と民主党との対立が更に激化すれば、2020年の選挙まで必要とされる経済政策を実行できなくなる可能性がある。
世界経済が減速する中にあっても、米経済は相対的な底固さを保っている。9月17~18日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)でも、今年2回目の利下げを実施しながら、その先の追加利下げの有無については明確な態度を示さなかった。ただ、ここにきて米経済に対しても減速の兆候が増え始めており、大統領弾劾手続きは直接的には米政治リスクの高まりが金価格を刺激するが、米経済の減速リスク、追加利下げの可能性を更に高める動きとの評価も要求される。
定期市場では9月上旬に調整圧力が目立ったが、金上場投資信託(ETF)の投資残高は急増している。既に2013年以来の高水準に達しており、長期投資家の金市場に対する資金シフトが活発化していることが窺える。
10月第2週には閣僚級の米中通商協議も控えているが、どのような結果になるのか先読みは難しい。トランプ大統領は、部分的合意ではなく最終合意を目指すとして、大統領選前の合意を急がないとの強硬姿勢を打ち出している。投資環境は依然として多くの不透明感を抱えており、安全資産の代表格である金は買われ易い地合が維持されている。
(2019/09/25執筆)
(2019/09/25執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】
(出所)中部経済新聞2019年9月30日「私の相場観」
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