小菅努の商品アナリスト日記

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対イラン制裁強化とローガン法違反の脅し

トランプ米大統領が、Twitterで3月28日以来、約1カ月ぶりに原油について言及しました。


「サウジアラビアと他のOPEC加盟国は、我々のイラン産原油に対する完全な制裁によって生じる以上の石油供給を行うだろう。イランはジョン・ケリーから非常に悪いアドバイスを受けており、アメリカのイラン核合意は非常に悪い方向に進んでいる。ローガン法の重大な違反?」となる。

第一のポイントは、4月22日に発表したイラン産原油に対する完全な制裁でイラン産原油の供給が減る分については、OPECがカバーできるとの見通しです。具体的に名前があがっているのはサウジアラビアですが、事前の調整が行われていた可能性が高いことが示されています。

第二のポイントは、ジョン・ケリー元国務長官に対する批判です。ケリー元長官はイラン核合意をオバマ政権時代のレガシーとして重視しており、退任後もイラン高官との接触を行っていることを認めています。トランプ政権は、政権の対イラン政策を台無しにしていると強く批判していますが、ローガン法違反の可能性を警告したかっこうです。

ローガン法とは、米国と対立関係のある国と政府の許可がない個人が交渉することを禁止するものですが、ケリー元長官のイランとの接触がローガン法違反の可能性があるという訳です。「?」を付けているものの、かなり厳しい批判になります。

イランに対する制裁強化の文脈で、1)OPECの代替供給と並んで2)ケリー元長官批判を行ったことからは、トランプ大統領が今回の対イラン制裁に本気で取り組む意思を有していることを明確に示しているのではないでしょうか?

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リビアの地政学リスクが再噴火?


リビア首都トリポリの南方で5日、元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル(Khalifa Haftar)氏に従う勢力が親政府勢力と衝突した。国連(UN)のアントニオ・グテレス(Antonio Guterres)事務総長はこの直前、戦闘の発生を避けるため、ハフタル氏と会談していた。

 トリポリは現在、国連の支持を受ける統一政府が同盟勢力と共に支配している。ハフタル氏は4日、同市を奪取するため指揮下の民兵組織「リビア国民軍(LNA)」に進軍を命じた。

出典:AFP NEWS
ここ数年のリビアは石油需給の視点では、引き締めよりも緩和要因としての役割が目立っています。アラブの春で産油量をほぼ失っていましたが、2017年中盤以降は日量100万バレル程度の供給量を安定的に確保できているためです。アラブの春以前の150万バレルや160万バレルといった数値には届きませんが、トレンドとしてみると、石油輸出国機構(OPEC)の政策減産効果を相殺する役割を果たしています。実際に、減産合意の枠外から外れており、減産よりも生産水準の正常化が各国から容認されている産油国になります。

一方で、リビアでは東西に政治勢力が分断しており、石油利権をめぐって頻繁に紛争が発生しています。そのリビアで、再び政情不安が高まっているのが現状です。まだ不可抗力条項が発動されるには至っていませんが、オイルフィールでも戦闘が行われる事態になれば、安全確保のために原油生産、輸送などの停止が促され、リビア産原油の供給が突然に数十万バレル規模で減少する可能性があります。

現在は、イランとリビア産原油の供給が落ち込むのではないかとの警戒感が広がっていることもあり、原油相場に必要以上の刺激を与える可能性があります。

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サウジが「武器としての石油」を使うリスク

石油を武器として使用するのは、イランの専売特許ではないのかもしれません。イランは、米国の経済制裁で自国の原油輸出が阻害されれば、ペルシャ湾からの出口に位置するホルムズ海峡を封鎖する可能性を指摘しており、同海峡は国際原油供給のボトルネックとして注目されています。

一方、アラビア半島を挟んで南側に位置する紅海は、インド洋方面にバブ・エル・マンデブ海峡、地中海側にスエズ運河を有しており、こちらもいわゆる「choke point(チョークポイント)」になっています。通過する原油・石油製品の数量的には、ホルムズ海峡の日量1,900万バレルに対して、バブ・エル・マンデブ海峡は480万バレルですが、湾岸諸国側からみると欧州、そして米国向けに原油を輸出する際の重要拠点になっています。かつて第四次中東戦争の時には、エジプトが海上封鎖を行ったこともあります。

ホルムズ海峡とは異なり、バブ・エル・マンデブ海峡は必ずしもマーケットの注目度は高くありません。地域の政情が比較的安定していることもあって、同海峡封鎖のリスクは現実的ではないためです。しかし、ここにきて状況が少し変わってきています。7月26日、イスラム教シーア派(Shiite)反政府武装勢力「フーシ派(Huthi)」が、同海峡付近でサウジの石油タンカー2隻を襲撃したためです。

Reuters=Saudi Arabia halts oil exports in Red Sea lane after Houthi attacks

サウジのファリハ・エネルギー相は一時的に紅海経由の輸出を停止すると発表しましたが、マーケットは必ずしもこの問題を深刻には捉えていませんでした。攻撃を受けた船舶の除去が終わり、航行の安全が確認できれば、早期に輸出再開が可能とみられていたためです。

しかし、ここにきて8月までこの問題がずれ込む可能性が浮上しています。サウジ側からは何も発表がありませんが、時間的にみてサウジが意図的に輸出停止を長引かせている可能性が警戒されています。

サウジは従来からフーシ派との対決において、欧州や米国に対して支援を要請していましたが、大量の武器を売り込まれるだけでした。ここにきて米国とイランとの対立が先鋭化する中、イランの支援を受けるフーシ派に対しても米国や欧州と共同歩調を取ることを迫るために、敢えて紅海経由の原油輸出を停止させている可能性があります。

米国はここにきて中東への関心を急激に高めていますが(参考:「アラブ版NATO」の背後にイスラエルの影)、「米国vsイラン」、「サウジvsフーシ」の二つが合わさると「米国=サウジvsイラン=フーシ」へと対立構造が拡大していきます。トランプ大統領の目的が、武器販売拡大なのか、中東地区におけるロシアとの影響力競争なのか、イラン核脅威の封じ込めなのかは正直に言って良く分かりませんが、中東情勢が大きく揺らぎ始めていることだけは間違いなさそうです。

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(出所)EIA

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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