石油を武器として使用するのは、イランの専売特許ではないのかもしれません。イランは、米国の経済制裁で自国の原油輸出が阻害されれば、ペルシャ湾からの出口に位置するホルムズ海峡を封鎖する可能性を指摘しており、同海峡は国際原油供給のボトルネックとして注目されています。
一方、アラビア半島を挟んで南側に位置する紅海は、インド洋方面にバブ・エル・マンデブ海峡、地中海側にスエズ運河を有しており、こちらもいわゆる「choke point(チョークポイント)」になっています。通過する原油・石油製品の数量的には、ホルムズ海峡の日量1,900万バレルに対して、バブ・エル・マンデブ海峡は480万バレルですが、湾岸諸国側からみると欧州、そして米国向けに原油を輸出する際の重要拠点になっています。かつて第四次中東戦争の時には、エジプトが海上封鎖を行ったこともあります。
ホルムズ海峡とは異なり、バブ・エル・マンデブ海峡は必ずしもマーケットの注目度は高くありません。地域の政情が比較的安定していることもあって、同海峡封鎖のリスクは現実的ではないためです。しかし、ここにきて状況が少し変わってきています。7月26日、イスラム教シーア派(Shiite)反政府武装勢力「フーシ派(Huthi)」が、同海峡付近でサウジの石油タンカー2隻を襲撃したためです。
Reuters=Saudi Arabia halts oil exports in Red Sea lane after Houthi attacks
サウジのファリハ・エネルギー相は一時的に紅海経由の輸出を停止すると発表しましたが、マーケットは必ずしもこの問題を深刻には捉えていませんでした。攻撃を受けた船舶の除去が終わり、航行の安全が確認できれば、早期に輸出再開が可能とみられていたためです。
しかし、ここにきて8月までこの問題がずれ込む可能性が浮上しています。サウジ側からは何も発表がありませんが、時間的にみてサウジが意図的に輸出停止を長引かせている可能性が警戒されています。
サウジは従来からフーシ派との対決において、欧州や米国に対して支援を要請していましたが、大量の武器を売り込まれるだけでした。ここにきて米国とイランとの対立が先鋭化する中、イランの支援を受けるフーシ派に対しても米国や欧州と共同歩調を取ることを迫るために、敢えて紅海経由の原油輸出を停止させている可能性があります。
米国はここにきて中東への関心を急激に高めていますが(参考:「アラブ版NATO」の背後にイスラエルの影)、「米国vsイラン」、「サウジvsフーシ」の二つが合わさると「米国=サウジvsイラン=フーシ」へと対立構造が拡大していきます。トランプ大統領の目的が、武器販売拡大なのか、中東地区におけるロシアとの影響力競争なのか、イラン核脅威の封じ込めなのかは正直に言って良く分かりませんが、中東情勢が大きく揺らぎ始めていることだけは間違いなさそうです。

(出所)EIA
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】
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マーケットエッジ(株)では、コモディティ市場と金融市場のレポート配信の他、講演のご依頼も承っています。まずはご相談下さい。
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ホルムズ海峡とは異なり、バブ・エル・マンデブ海峡は必ずしもマーケットの注目度は高くありません。地域の政情が比較的安定していることもあって、同海峡封鎖のリスクは現実的ではないためです。しかし、ここにきて状況が少し変わってきています。7月26日、イスラム教シーア派(Shiite)反政府武装勢力「フーシ派(Huthi)」が、同海峡付近でサウジの石油タンカー2隻を襲撃したためです。
Reuters=Saudi Arabia halts oil exports in Red Sea lane after Houthi attacks
サウジのファリハ・エネルギー相は一時的に紅海経由の輸出を停止すると発表しましたが、マーケットは必ずしもこの問題を深刻には捉えていませんでした。攻撃を受けた船舶の除去が終わり、航行の安全が確認できれば、早期に輸出再開が可能とみられていたためです。
しかし、ここにきて8月までこの問題がずれ込む可能性が浮上しています。サウジ側からは何も発表がありませんが、時間的にみてサウジが意図的に輸出停止を長引かせている可能性が警戒されています。
サウジは従来からフーシ派との対決において、欧州や米国に対して支援を要請していましたが、大量の武器を売り込まれるだけでした。ここにきて米国とイランとの対立が先鋭化する中、イランの支援を受けるフーシ派に対しても米国や欧州と共同歩調を取ることを迫るために、敢えて紅海経由の原油輸出を停止させている可能性があります。
米国はここにきて中東への関心を急激に高めていますが(参考:「アラブ版NATO」の背後にイスラエルの影)、「米国vsイラン」、「サウジvsフーシ」の二つが合わさると「米国=サウジvsイラン=フーシ」へと対立構造が拡大していきます。トランプ大統領の目的が、武器販売拡大なのか、中東地区におけるロシアとの影響力競争なのか、イラン核脅威の封じ込めなのかは正直に言って良く分かりませんが、中東情勢が大きく揺らぎ始めていることだけは間違いなさそうです。

(出所)EIA
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】
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