小菅努の商品アナリスト日記

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トルコにおける米国人牧師の収監にみる、トランプ大統領の二元論

トランプ米大統領は、トルコでテロやスパイ罪に問われている米国人牧師について、釈放しなければ同国に対して大規模な制裁措置を発動すると警告しました。


米国では、イランに対する経済制裁回避のためにトルコ人のバンカーが起訴され、有罪判決が下っています。一方、トルコ側では16年10月に米国人牧師が訴追され、拘束されています。こうした両国民を人質にする司法環境を受けて、米国とトルコ間では観光客の規制が行われるなど関係悪化が進み、特に海外資本に依存するトルコにとってはこの問題をどのように処理するのかが重要な問題になっていました。

7月18日にはトルコの裁判所が収監継続を決定しましたが、25日にはこの収監継続の措置が撤回され、自宅監禁に格下げされています。公式には牧師の健康面に配慮したものとされていますが、明らかに米国との関係改善を目指すエルドアン大統領の意向を反映したものでしょう。トルコ側から、関係改善のボールを投げ掛けたのです。

しかし上述のようにトランプ大統領は寧ろ態度を硬化させ、釈放を改めて求め、制裁措置のカードまで一気にテーブルの上に乗せてきました。トルコ側としては一定レベルの「誠意」を見せた恰好ですが、トランプ大統領には通用しなかったのです。

トランプ大統領の判断基準は「ゼロ」か「1」の二つだけであり、仮に米国との関係改善を目指すのであれば、釈放を決定すべきでした。通常であれば今回のような段階的な交渉は間違いではありませんが、トランプ大統領に対しては「0.5」の譲歩案は通用しません。拘束を自宅監禁に格下げするような譲歩案は、トランプ大統領の目には意味がない動きと映っています。トルコリラに対しては、逆に下落リスクを高める動きになってしまっています。

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トルコ中銀は利上げ見送り、14年ぶりの高インフレを無視

トルコ中央銀行は7月24日の金融政策会合で、政策金利である1週間物レポ金利を17.75%で据え置きました。直近の6月消費者物価指数は前年比+15.39%と5月の+12.15%から大きく上振れしていたため、マーケットでは1.00~1.25%程度の利上げ対応が見込まれていました。エルドアン大統領が再選されて中央銀行の独立性に懸念が生じる中、14年ぶりの高インフレ環境における利上げは、中央銀行への信認を高めると同時にインフレを抑制するために、ベストの政策対応とみられていたためです。

しかし実際には、金利据え置きという形でインフレコントロールに意欲がないことを示す結果に終わってしまっています。トルコのインフレ目標は+5.00%であり、現在のインフレ率はそれを10%も上回っています。インフレ率を政策金利が上回ったことで実質金利が+2.36%とプラス状態になっていることは一定の評価が可能ですが。急激なインフレと通貨安の中でなぜトルコは利上げに消極姿勢を崩さないのか、マーケットは理解ができない状況です。

4月以降に累計5.00%の利上げが行われているとは言え、最近のインフレ動向からは再びマイナス金利化するのは時間の問題です。それにもかかわらず利上げに踏み切らないということは、トルコ中央銀行の関心事は通貨価値やインフレのコントロールではなく、利上げを極端に嫌うエルドアン大統領の意向であることを明確に示してしまった格好です。

トルコはハードカレンシーのドル金利が上昇する中で、海外からの資金調達に依存するしかないファイナンス環境ですが、インフレと通貨価値が毀損される中、どのようにして資金手当てを行うのか、見通しが立ちません。

新財務相に任命されたアルバイラク氏はエルドアン大統領の娘婿であり、口では「断固とした金融政策の実行を支持する」としていますが、インフレ環境安定化のために動きを見せるのか疑問視される状況です。物価上昇率をまずは一桁に抑制する方針を打ち出していますが、構造改革や財政改革といったエルドアン大統領が嫌う政策を打ち出せるのか疑問視されています。

トルコ通貨リラの上値が圧迫されるのは当然でしょう。5月にリラ/円相場は個人投資家の投げ売りで急落を経験して玉整理が進んでいましたが、この状況でもまだ買いを入れる向きがある以上、下値不安を残しそうです。

【トルコ消費者物価指数(前年比)】
無題















(出所)Reuters

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忖度批判を意識せざるを得なくなったFRB

トランプ米大統領は19日、20日と二日連続で利上げとドル高に懸念を表明しました。「利上げをする度に、米連邦準備制度理事会(FRB)は追加利上げを望んでおり、そうした状況をさほど喜ばしいとは感じていない」、強いドルは「米国を不利な立場に置く」と指摘しています。

CNBC=Trump lays into the Federal Reserve, says he's 'not thrilled' about interest rate hikes

また、中国、欧州などが為替操作を行い金利を引き下げる中、米国が利上げを続けてドルが日々強くなり、米国の国際競争力が失われていることにも懸念を表明しました。


金融政策はFRBの専権事項であり、財務長官が間接的に言及するだけでも大きな問題になりますが、大統領が明確に利上げとドル高に不快感を示したのは異例であり、マーケットはドル売りで反応せざるを得なくなりました。

なぜ突然に金融政策とドルについて言及を始めたのかはよく分かりません。1)ドル高が米国の交易環境を悪化させていることに関心がシフトした、2)中国や欧州の通貨安批判の文脈上の言及に過ぎない、3)貿易摩擦が景気減速を招いた際のFRBへの責任の押し付けなど、さまざまな要因が指摘されていますが、いずれにしても為替市場に新たな不確実要素が持ち込まれたことは間違いありません。

ただ、実質的な効果という意味ではほとんどないでしょう。ムニューシン米財務長官が慌てて金融政策に影響を及ぼす意図はないと釈明するなど、大統領の金融政策への言及は間違いなくあってはならないことです。トルコではエルドアン大統領の金融政策への介入が問題になっていますが、「トランプ大統領のエルドアン化」ともいえる状況が発生しています。

このため、中央銀行の独立性が疑問視されればトルコリラと同様に米ドルも売られる可能性が浮上しますが、現実的ではないでしょう。さすがにトランプ大統領にそこまでの強権をふるう権限はありません。寧ろ、今回の発言によってFRBは利上げを継続せざるを得ない状況に追い込まれたとみるべきでしょう。ここで利上げ政策に修正を迫られば、「トランプ大統領に忖度したのでは?」との疑問が浮上するのは当然です。そうした不名誉を回避するためには、これまで示してきた利上げ軌道を着実に消化していく他はありません。逆に、本来であれば利上げを休止すべき局面になったとしても、政策調整の決断を下せない状況に陥った可能性が高いと思われます。

そしてドル高が米国の弱気とみた中国などは、意図的に人民元安誘導を行っている可能性さえ指摘されています。今、ドル高にブレーキを掛けるのであれば通商リスクを軽減させる方向性が最短距離と思われますが、通商リスクは寧ろ高める方向に展開しており、自らの政策が歓迎していないドル高を促していることに対する焦りが見え隠れします。自らの対イラン、ベネズエラ政策が原油高を促す中、石油輸出国機構(OPEC)を批判しているのと同じ構図で見るべきかもしれません。

無題














(画像出所)CNBC

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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