小菅努の商品アナリスト日記

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foreign exchange

米国債を売り、金を買うロシア中銀

ロシアが外貨準備における米国債の削減に動いています。2017年4月時点の1,049億ドルに対して、直近の今年4月時点では451億ドルに留まっています。これが外貨準備の減少に伴う動きであれば分かり易いものですが、実際には原油価格回復と連動してこの間の外貨準備は急増しています。つまり、米国債購入圧力が強まり易い局面で、寧ろ積極的に米国債保有を削減しています。

【米国債保有高(国別)】
無題













(出所)Department of the Treasury,US

もちろんロシア政府は公式にその理由を説明するようなことはありませんが、今年に入ってからのトレンドであり、特に4月にその動きが加速したことからは、トランプ政権の対外政策が強硬さを増していることと無縁ではないでしょう。

一般に外貨準備として米国債が志向されるのは、米国の信用に裏付けられた「無リスク(risk free)」性にあります。準備資産を米国債で運用するのは、常識ともいえるオペレーションでした。しかし、ロシアは少なくとも自国にとって米国債は「無リスク」ではないと考えている模様であり、戦略的に米国債を手放しています。

そして、これとは対照的に購入量が増えているのが金です。4月時点での過去1年間に193.9トンの購入が報告されている。もはや中国を上回る規模の金保有国になっています。もちろん、戦略的に米国債を握ることで、米国のファイナンス面での命綱を握るという選択肢もあります。中国などは明らかにカードとして米国債保有残高の多さを利用しています。しかし、ロシアに関しては米国債離れを選択しています。トランプ政権の対外政策が厳しさを増す毎に、外貨準備政策を変更する第二、第三のロシアが誕生することになりそうです。

無題

















【ロシアの金準備資産】
Q1_2000_Q1_2018_Gold_Reserves__Tonnes

















(出所)WGC

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中立金利から考える金の最後の買い場

ドルインデックスの上昇が続いています。6月15日に続いて、19日、20日、21日と3営業日連続で年初来高値を更新しています。その一つの要因として、米金融政策の正常化圧力の強さがあるのは間違いないでしょう。欧州中央銀行(ECB)は年内の資産購入終了に道筋をつけましたが、その先の利上げについては未だ見通しづらい状況です。日本銀行に至っては、そもそも緩和政策修正の道筋が描けていません。着実に利上げサイクルを消化するドルに資金シフトが発生するのは当然と言えるかもしれません。

一方で、利上げサイクルには終着点が存在し、無制限な利上げが許容される訳ではありません。本質的に金利上昇は経済、インフレを抑制するものであり、どこかに限界があります。いわゆる中立金利の議論です。景気を過熱も冷却もさせない金利水準が、当面の利上げサイクルの目安になります。

この中立金利ですが、現在の米金融当局者のコンセンサスは2.9%となっています。今年3月に0.1%引き上げられましたが、ざっくりとここ最近の流れを振り返ると3%前後の水準になります。つまり、ここが一応の利上げサイクルの終着点の目安になります。

一方、現在のフェデラル・ファンド(FF)金利のターゲットは1.75~2.00%であり、中心の1.875%で計算すると、残りの利上げ余地は1.025%になります。利上げサイクルが始まった2015年時点だと、中立金利が3.3%、FF金利ターゲットが0.25~0.50%とあって2.925%の利上げ余地が残されていましたが、そろそろ利上げサイクルの終着点も意識する必要性が浮上しています。

実際にセントルイス連銀ブラード総裁は5月31日に東京都内で開かれたセミナーで、中立金利が低いとして、予見できる将来は金利を現行水準に留めるべきだと主張しています。サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁も6月1日、あと3回の利上げで中立金利に到達するとして、暫くは中立金利を上回る水準までの利上げを想定するも、経済成長抑制に作用し始めるとの見通しを示しています。

問題は、この中立金利は把握するのが極めて難しいことです。例えば、実質経済成長率が1.8%、PCEインフレが2.0%と想定されていることを考慮すれば、名目成長率から3.8%との推計も成り立ちます。この場合だと、利上げ余地は現在の1.025%から1.925%まで跳ね上がります。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)も分からないと本音を隠していません。

ただ確かなことは、利上げ余地が乏しくなってくれば、ドル相場高・金相場安を進める余地は限定されることです。金市場に限定しても、概ね利上げサイクル終了時期と前後して、金相場は底入れから上昇トレンドに転換する可能性が高まります。今後1~2年の金価格の下げた所はボトム圏になり、中長期投資家にとっては絶好の買い場になるというのが、過去の米金融政策と金価格との関係から導かれる価格見通しになります。

そして、トランプ政権が誕生した2017年以降の議論は、こうした米金融政策の飽和状態を待たずに、トランプ政権発のドル安圧力が金相場の底入れを前倒しするか否かとの視点で展開されています。つまり、本来であれば金相場の底入れは2019~20年頃に訪れることになりますが、通商リスク・財政リスクなどが米金融政策環境と関係なくドルを押し下げ、金価格を十分に押し下げない可能性が想定されています。

2017年型の相場環境を想定すれば底値把握のための時間は短く、それと異なる相場環境を想定すれば今後1~2年で安値を買い拾えば十分ということになります。

無題
















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金市場からみたFOMCとECB理事会のマトリックス分析

6月12~13日に米連邦公開市場委員会(FOMC)、14日に欧州中央銀行(ECB)理事会が開催されます。米欧双方の金融政策にタカ派の見通しが浮上する中、当局者がどのようなスタンスを示すのかが、当面の金価格動向を決定づける可能性があります。

FOMCに関しては0.25%の追加利上げは規定路線であり、そこから更に踏み込んで年3回の利上げ見通しを4回に引き上げる動きがみられるか否かが焦点になります。ドットチャートに対して上向きの修正圧力が確認できれば、その程度にもよりますが利上げサイクル加速観測がサポートされます。

一方、ECB理事会に関しては7月が注目されていましたが、ここにきて当局者から年内の資産購入(QE)終了についての討議、更には決定を下す可能性が強く示唆されています。おそらく討議が行われる所までは確実ですが、年内QE終了が発表されると、米国に続いて欧州でも金融政策正常化の加速が意識され易くなります。

無題














上はこの辺の議論をマトリックス化したものです。ドル建て金相場とドルとの逆相関を前提にすると、強気派にとっての理想的な状況はFOMCが金利見通しを引き上げない一方、ECBがQE終了の判断を下す展開になります。ドル安・ユーロ高がドル建て金相場を支援するでしょう。逆に、FOMCが金利見通しを引き上げる一方、ECBがQE終了の判断を先送りすると、ドル高・ユーロ安がドル建て金相場を大きく押し下げます。

そして、この中間的になるのがFOMCとECBがともにタカ派、またはハト派のメッセージを打ち出した場合になります。基本的には、FOMCが金利見通し引き上げを見送れば買い、引き上げを実施すれば売りになるかと考えていますが、ユーロサイドの要因でショックは吸収されるでしょう。

そしてサブシナリオとしては、米欧の政策正常化の動きに改めて新興国市場が強く反応し、安全資産としてドルやユーロの動向と関係なく金に対して退避・分散投資ニーズが発生する展開になります。

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個人投資家に人気のトルコ通貨リラが急落

高金利通貨として日本の個人投資家に人気があるトルコ通貨リラ相場が急落している。リラ/円相場は年初の1リラ=29.7151円に対して5月23日安値は22.2795円に達しており、年初から既に25.0%の急落になっている。

無題


















直接的なきっかけは、米長期金利が急伸していることだ。原油高や良好な実体経済環境を背景に米国のインフレ環境が改善しており、米国の利上げサイクルが加速する可能性が指摘されている。従来は年3回の利上げが可能か否かといった議論だったが、今や年4回の利上げ予想も勢いを増している。この結果、年初は2.4%台に留まっていた米10年債利回りは、5月には一時3.1%台に乗せており、新興国から米国に対する資金シフトの動きが報告されている。

そして、ここにきてトルコ独自の売り材料として注目度が高まっているのが、中央銀行の通貨価値の防衛能力が疑問視されていることだ。4月のトルコ消費者物価指数は前年比10.85%上昇に達しており、リラの購買力は急速に失われている。この状況で米国の金利水準が急激に切り上がっていることが、トルコからの資本流出を加速させている。実際に、トルコでは通貨のみならず株式、債券なども売られるトリプル安が発生している。

一般的に通貨価値を防衛するには、金融政策を引き締める利上げを行うのが最短距離になる。米国以上に金利面での魅力を高めていけば、リラ売りの動きにブレーキが掛かる可能性がある。しかし、トルコではエルドアン大統領が利上げに強く反発しており、独立性が疑問視されている中央銀行は通貨防衛に十分な政策対応を行えない状況に陥っている。

象徴的だったのが、5月14日にトルコ政府代表団が機関投資家を対象に行った経済政策の説明会だった。海外投資家にトルコへの投資に安心感を持ってもらうための説明会だったが、エルドアン大統領は金利引き下げで、物価上昇と通貨安に歯止めを掛ける計画を明らかにしたのだ。これは同大統領が従来から主張していた政策だが、マーケットは金利引き下げがなぜ物価上昇と通貨安に歯止めを掛けることになるのか、エルドアン大統領独自の経済理論を理解できずに不信感を募らせている。

5月9日にはリラ安を巡る対応で緊急協議が開催されたが、そこでもマーケットが求める金利引き上げに前向きな動きは見られなかった。11日にはエルドアン大統領が改めて金利が「全ての悪の根源」と断言し、6月の大統領選・議会選後に金利の「呪い」と闘うとして、金利引き下げを行う方針を確認している。更に15日には、大統領は金融政策に「影響力を持つべき」として、将来的に中央銀行に対して金利引き下げを迫る可能性を強く示唆している。16日には中央銀行が「必要な措置を取る見込み」と公表したことで漸く利上げが実施されるとの見方が広がったが、その後も通貨防衛のための施策は打ち出されていない。

格付け会社はこの状況に警告を発し、フィッチは金融政策の独立性に懸念を表明している。また、S&Pは、通貨安圧力に当局が歯止めを掛けられない状況に懸念を表明している。こうした動きは今後の格下げを警告したとも言えるが、それでも中央銀行が動きを見せないことが、早期の政策対応を求める一種の催促相場としてのトリプル安を促している。

しかも、23日の東京時間早朝にリラ/円相場が26円台中盤から25円台中盤まで急落したことで、これまで高金利に魅力を感じてリラを買い続けてきた個人投資家が、相次ぐリラ安を受けてポジションの強制決済を迫られた可能性が指摘されている。

国内の低金利環境下において、高金利通貨は人気を博しており、実際に通貨価値が維持されている間は、実際に大きなリターンが期待できる。しかし、高金利通貨には金利が高くなければ資本流入を維持できない問題を抱えているものが多く、ここにきて新興国通貨の中でも特に多くの問題を抱えたリラ相場が急落対応を迫られている。高金利通貨の持つリスクの高さが顕在化した局面になっている。

トルコ中央銀行が市場の警告を素直に受け止めて通貨防衛に舵を切れば、リラ安にはブレーキが掛かる可能性も浮上する。しかし、トルコは中東の地政学リスクも抱えており、リラに資金回帰を促すために必要な政策レベルは高まる一方の状況にある。トルコ中央銀行がエルドアン大統領の圧力を排して、必要な通貨貿易策を打ち出せるかが注目されている。

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(出所)個人投資家に人気のトルコ通貨リラが急落(Yahoo!ニュース)

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トルコを襲うトリプル安、中銀に決断を迫る

米長期金利の急伸で新興国通貨全体に下押し圧力が強くなっていますが、この中でも特にトルコリラの下げが目立つ状況になっています。単純な「米金利上昇→資金流出懸念」のみならず、「地政学リスクの高まり」、「中央銀行の通貨防衛能力への疑問」とネガティブ材料が重なる中、投機筋に狙い打ちにされているためです。通貨リラの急落のみならず、トルコ10年債利回りは15%目前に迫り、株価指数も強力な売り圧力に晒されています。通貨・株・債券のトリプル安がトルコにおいて発生しています。

【トルコリラ/円相場】
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(出所)Reuters

【トルコ10年債利回り】
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(出所)Reuters

【トルコ株価指数 ウルサル100】
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(出所)Reuters

「中央銀行の通貨防衛能力への疑問」についてだけ触れますと、5月9日にはエルドアン大統領がリラ安を巡る対応で緊急協議を開催し、金利にかかる圧力の緩和、リラを下支えする措置を講じることで合意しました。

ここでマーケットはかねてから利下げを主張していたエルドアン大統領が、通貨暴落を受けて漸く経済学に沿った政策を採用する「変心」をしたのではないかとの期待感を高めていました。しかし実際には、その2日後の11日に金利引き下げの主張を行い、マーケットに失望をもたらすだけの結果に終わっています。マーケットは利上げによる通貨防衛策が直ちに必要な施策とみていますが、大統領は逆に金利を引き下げれば企業や家計部門の活動は活発化し、トルコに対する資本が流入し、インフレも改善するとの独自の考えを有しています。ただ、マーケットは利下げで通貨防衛ができるとのエルドアン大統領の政策スタンスを信頼できず、不信感を募らせています。

唯一の期待が中央銀行の独立性です。政治と独立した金融政策が展開されれば、大統領の意向と関係なく利上げによる通貨防衛が実施される可能性があります。しかし、エルドアン大統領は15日、来月の大統領選の勝者は金融政策でも影響力を発揮するべきとして、金融政策に政治的な介入を行うことに意欲を示しています。これは中央銀行が経済学に沿った政策を展開することを大統領が阻止することを意味し、中央銀行が通貨防衛に向けて身動きが取れない状況に対する警戒感が広がっています。

トルコ中央銀行は16日、市場における不健全な価格形成を注意深く監視し、インフレ率見通しに与える為替動向の影響を考慮した上で、必要な措置を取る見込みと発表を行っていますが、マーケットはこの声明をも額面通りに受け止めていません。17日にはエルドアン大統領とトルコ中央銀行総裁が会談を行うとの報道も流れましたが、大統領に変心を迫ることも、中央銀行が独立性を発揮することも難しいとの見方が支配的です。

中央銀行総裁が自らの職を賭して利上げに踏み切ればリラ相場の急反発は必至だが、その決断ができるかどうか不透明感が強く、マーケットはトルコトリプル安でトルコ中央銀行、そしてエルドアン大統領に対する圧力を強化しています。

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。仮想通貨、為替、株価指数などもカバーしています。

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