小菅努の商品アナリスト日記

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VIXショックで金も急落

VIXショックで金も急落
リスク資産も安全資産も売り


新型コロナウイルスの感染被害拡大は、投資環境に対して極度の先行き不透明感をもたらしている。市民生活のみならず世界経済にとっても大きなリスクになっていることは間違いないが、そのリスクが実際にどの程度のレベルのものなのかは、誰も判断できない状況に陥っている。新型コロナイルスの感染被害が終息に向かうのか否か、終息に向かうとすればどのような軌道を描くのか、マーケットは既に予測を放棄してしまっている。当初は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)などが先行事例として利用できるのではないかと期待されていたが、実際の感染力も致死率も良く分からないままに時間ばかりが過ぎていく状況になっている。


こうした不確実性が現れるマーケットがボラティリティ指数(恐怖指数、VIX)になるが、同指数は2月上旬の15ポイント水準に対して、3月16日には80ポイントを上回る異常事態になった。VIXが終値で80ポイントを上回ったことは過去に二度しかなく、一回目が08年の世界同時金融危機、そして二回目が今回の新型コロナウイルスの危機になる。マーケットの歴史上、過去に殆ど経験したことのない不確実性に直面していることが確認できる。


一般的にVIXの上昇局面では株価が急落していることが多く、通常だと株式や原油などのリスク資産から、金や米国債などの安全資産に対する資金シフトが促されることになる。実際に、VIX上昇の初期段階では金が積極的に買われており、3月9日には1オンス=1704.30ドルと2012年12月以来の高値を更新していた。しかし、更にVIXが上昇を続けて50ポイントを上回るような状態になると、金市場からも資金を引き揚げる動きが活発化した。


極端な高ボラティリティ環境で、株価が瞬時に急騰・急落するリスクを抱えた状態になる中、多くのマクロファンドが許容できるリスクの限界を突破したと評価したためだ。この結果、株式相場が売られたのはもちろん、米国債、コモディティ市場では金やプラチナから農産物まで全面安の展開になった。ファンダメンタルズからみて割安や下げ過ぎとの指摘も聞かれたが、マーケットの関心はリスク削減の一点に集中し、いわゆる「キャッシュ化」の動きが優勢になっている。VIXの高騰が一服するまでは、コモディティ市場は金も含めて全面安の展開を強いられることになる。これは、08年のVIX高騰時にも観測されている値動きである。


一方、その08年の経験からは、VIXのピークアウトと同時に、金相場は底入れして上昇相場に回帰することになる。実体経済の減速、金融政策の緩和、財政拡張など、金相場のファンダメンタルズは一段と強気に傾いており、特に米連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利政策と量的緩和政策を再開していることは、将来的な上昇リスクを高める。

(2020/03/19執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年03月23日「私の相場観」

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FRBの緊急利下げで金堅調

FRBの緊急利下げで金堅調
金利無き世界への回帰進む

米連邦準備制度理事会(FRB)は3日3日、0.50%の緊急利下げを決定した。17~18日に定例の米連邦公開市場委員会(FOMC)開催を控えているが、新型コロナウイルスの感染被害で実体経済やマーケット環境のリスクが高まる中、前倒しで利下げ対応を実施する必要があると判断した模様だ。声明文では、「米経済のファンダメンタルズは依然として強い」として、基調判断に大きな修正の必要性は認めなかった。ただ、リスクが高まっていることに対しては強い警戒感を示しており、昨年と同様に予防的観点からの利下げ対応が必要と判断したのだろう。

こうしたFRBの決定を受けて、米長期金利は1.0%の節目も割り込む異常事態になっている。現在の期待インフレ率は0.5%程度を推移しており、実質ベースではマイナス金利の深掘りが進むことになる。金相場は実質金利と強力な逆相関関係を形成しているが、特にマイナス金利環境においては無金利・無配当資産である金のパフォーマンスは大きく向上する傾向にある。

しかも、FRBの利下げは今回に留まらない可能性が高く、仮に今後2週間のマーケット環境に大きな混乱がみられると、定例会合でも追加利下げが実施される可能性も十分にある。3月中の追加利下げが見送られても、今後は断続的な利下げ対応を迫られる可能性が高まっている。

一方で、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は1.00~1.25%しか残されておらず、今後の利下げ余地は多くない。新型コロナウイルスが早期に終息すれば問題は限定されるが、仮に長期化する事態になると、政策の手詰まり感が強く警戒される状況に陥る。パウエルFRB議長も、利下げは感染被害の終息には効果がないとしているが、利下げによる対処療法を続ける間に、新型コロナウイルスを収束に向かわせ、経済活動やマーケット環境の正常化が実現しないのであれば、ゼロ金利政策から量的緩和政策への展開といった、2008~09年の世界同時金融危機の際にみられた金融政策環境に近づくことになる。

FRBが利下げに踏み切った以上、今後は世界の中央銀行が一斉に金融緩和スタンスを強化することになる。その際は、政策対応の余地が乏しい日本銀行や欧州中央銀行(ECB)が大きく動く余地は乏しく、特にドル建て金価格が大きく上昇し易くなる。

株価動向次第では、2月28日にみられたような流動性確保のための持ち高調整の動きが、改めて金相場を押し下げるリスクは残されている。金市場では、依然として投機筋の買いポジションが大量に存在している。ただ、世界的な金融緩和圧力の強化は「金利無き世界」への逆戻りを促すことになり、金相場の基調は一段と強化されることになる。1700ドル台へのコアレンジが早期に実現する可能性も想定しておきたい。
(2020/03/05執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年03月09日「私の相場観」

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株価急落局面で金価格も急落している「謎」

世界の株価が急落する中で、安全資産の代表格である金価格が下落する一見すると「奇妙」な現象が観測されている。指標となるNY金先物価格は、2月24日の1オンス=1,691.70ドルをピークに、28日の欧州タイムには1,630ドル水準まで急落している。27日の米株式市場ではダウ工業平均株価が過去最大の下げ幅を記録し、日経平均株価も25~28日の1週間で世界同時金融危機が発生した2008年10月以来の下げ幅を記録する中にあって、金価格が急落しているのである。

一般的な理解では、金は「安全資産」と言われるため、株価急落局面では買われることになる。株式市場から金市場に対する資金流入というのは、極めて分かり易い教科書的なロジックである。実際に、2月は株価急落環境において、米国債などと同様に金が安全性を高く評価されて買われていたことは間違いない。NY金先物価格は、2013年1月以来の高値を更新している。

では、なぜ足元では株価急落にもかかわらず、金が買われるのではなく、売られているのだろうか。考えられるのは、投資家がキャッシュなどの流動性を確保する目的で、金を売却している可能性である。

世界的に株価がパニック的な急落となる中、投資家は株式市場における含み損(=確定していない帳簿上の損失)への対応を迫られている。特に、先物取引などのデリバティブ取引では、元本以上の投資が可能なため、相場が予想の反対方向に向かうと、含み損への対応で新たなキャッシュが求められることになる。これを専門用語で「マージン・コール(追い証拠金)」と言うが、追加の「マージン(証拠金)」を要求する「コール(連絡)」が来て、ポジションの維持・決済のためにキャッシュが必要となるのだ。

これが現在は世界規模で発生しており、投資家は株式市場で発生した損失の穴埋めを行う必要性に迫られている。その際に、7年1ヵ月ぶりの高値圏にあり、多くの投資家が含み益を抱えている金が、売却対象になっている可能性があるのだ。

金市場を取り巻く環境をみれば、株価は急落し、米長期金利は過去最低を更新し、ドルが反落傾向を強めるなど、買い材料ばかりが目立つ状況にある。このため、金価格のファンダメンタルズは寧ろ強気に傾いており、更なる高騰相場を支持していると言える。しかし、流動性確保が最優先される局面においては、金価格に対して強気でも、金を売却せざるを得ない状況に追い込まれることもある。

実はこうした現象は世界同時金融危機の際にも観測されている。世界同時金融危機の際は、初期段階では金は安全資産として買われていた。しかし、株価がパニック的な急落を開始すると、株式市場などの損失を補填するために、金も売却されて急落したのである。これは、「有事」でも金は常に流動性を確保できる高い信頼性を有している結果であり、決して金の安全資産性が否定されている訳ではない。ただ、パニック状態に陥った際には、「安全資産」の金も売られることがある。

足元の金相場急落に関しては、最近の急ピッチな上昇相場の反動に過ぎない可能性も十分にある。しかし、仮に株価急落と歩調を合わせる形で金価格も急落する状況が継続し、本格化するのであれば、それはいわゆる「リーマンショック級」の危機が発生していることを意味することになる。株価急落がメディアでは大きく取り上げられているが、その環境下で金価格が急落していることは、極めて不気味な現象である。

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

※図表はリンク先の記事参照。

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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