意外と緩まなかったプラチナ需給、新型コロナウイルスのダメージは需要環境に留まらず

自動車の排ガス触媒や宝飾品に使用されるプラチナ(白金)価格が大きく上昇している。東京商品取引所(TOCOM)プラチナ先物価格は、3月17日の1グラム=1,843円をボトムに、5月21日には一時2,950円まで上昇し、3月12日以来となる約2カ月半ぶりの高値を更新している。NYプラチナ先物価格も、3月16日の562.00ドルをボトムに、5月20日には一時943.00ドルまで値上がりしている。

新型コロナウイルスの感染被害は、プラチナ需要にも大きなダメージを与えた。自動車生産や工業プラント建設には急ブレーキが掛かり、行動規制の動きから宝飾品販売も大きなダメージを受けている。頼みの綱と言える投資需要も、投資人気は安全資産である金に集中し、プラチナに対する投資家の関心は高まらなかった。

ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)によると、今年1~3月期のプラチナ需要は164.9万オンスであり、前年同期の264.9万オンス、前期の174.2万オンスを大きく下回っている。原油や銅など他の産業用素材と同様に、新型コロナウイルス対策で経済活動を制限した余波が明確に確認できる状況にある。

それにもかかわらず3月下旬以降に急反発しているのは、一つには経済活動の正常化が始まっていることがある。自動車生産に関しては、中国では3月、欧州では4月、北米では5月に工場の再開報告が増えている。従業員の新型コロナウイルス感染を防止する必要性もあって、通常の生産体制には程遠い状態だが、最悪期は脱したとの安堵感がみられる。「需要の停滞」よりも「需要が回復に向かっているトレンド」が重視されているのだ。これは産業用素材全体、更には株式市場にも共通したテーマであり、各国で行動規制が緩和・解除され、プラチナ需要が緩やかなペースでも改善に向かっていることが高く評価されている。

一方、プラチナ市場独自の材料と言えるのが、新型コロナウイルスが需要環境と同時に供給環境にも大きなダメージを与えたことだ。新型コロナウイルスはプラチナを使用する産業に活動の縮小・停止を迫ったが、その一方でプラチナ鉱山も生産停止を迫られた。最大生産国である南アフリカの場合だと、3月26日深夜から4月16日深夜までの21日間、全国でロックダウン(都市封鎖)が行われ、マンパワーに強く依存する鉱山業界もその対象になった。プラチナ鉱山業界では、南アフリカの主要産業であること、医療用目的の供給も必要なことなどを理由に例外認定を要請していたが、実際には鉱山操業も大きなダメージを受けた。

加えて、アングロ・アメリカン・プラチナ(アムプラッツ)で鉱石の製錬を行うコンバーター・プラント(ACP)で2月に爆発事故が発生し、予定外の補修作業を求められたことも、鉱山生産を抑制した。

WPICによると、1~3月期のプラチナ生産高は177.3万オンスであり、前年同期の188.1万オンス、前期の218.3万オンスを大きく下回っている。ロシアやジンバブエの生産は総じて安定していたが、南アフリカで発生した減産圧力をカバーすることはできなかった。

結果的に、1~3月期のプラチナ需給は12.4万オンスの供給過剰となり、前期の44.1万オンスの供給過剰と比較すると、寧ろ需給バランスは引き締まった格好になる。新型コロナウイルスのプラチナ需給に対する影響としては、専ら需要環境に対するネガティブな影響が注目されていたが、それと同時に供給環境に対してもそのインパクトを相殺する規模のネガティブな影響が生じていたことが確認されていることが、プラチナ相場の安値修正を加速させている。

NYプラチナ先物市場では、5月22日終値で受け渡し時期が最も早い5月限の881.70ドルに対して、1年後に受け渡しが行われる2021年4月限が884.00ドルになっており、殆ど価格差が見られない状況になっている。通常、需給緩和局面では受け渡しが早い5月限に対してディスカウント圧力が発生するが、安定したサヤバランスは、新型コロナウイルスの影響では、予想されていた程にプラチナ需給バランスは緩和しなかったことを示している。

新型コロナウイルスがプラチナ需要のみならず供給にも大きなダメージを与えたことで、そのあまりに大きなインパクトが逆説的ではあるが、プラチナ需給が極端な供給過剰状態に陥ることを回避させた。
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

※図表はリンク先の記事参照。

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