財政と金融政策が押し上げる金
米国債とドルに対する信認問題

NY金先物相場は、1オンス=1700ドル台までコアレンジを切り上げる展開になっている。新型コロナウイルスの感染被害が広がりを見せる前の1500ドル台中盤から、大きく値上りしており、2012年10月以来の高値を更新している。

直接的には、新型コロナウイルスが投資環境にもたらした不確実性が、安全資産である金に対する投資ニーズ拡大を促した格好になる。先読みが難しい投資環境になる中、投資家が米国債や金、キャッシュなどの保有比率を高める行動が観測されている。一方、足元では米欧で新型コロナウイルスの感染被害が終息に向かう兆候がみられるものの、金相場は高値圏を維持している。トランプ米大統領は段階的に経済活動の再開を進める方針を示しており、株式市場では安値修正の動きが本格化し始めている。ダウ平均株価は3月11日以来の高値を更新しているが、金市場からの資金流出圧力は限定されている。

背景にあるのは、米実体経済の減速圧力が深刻であり、財政政策と金融政策のフル稼働状態が長期化するのではないかとの警戒感である。米議会では新型コロナウイルス対策法案が次々に成立しており、第1~4弾までの合計で既に3兆ドル規模の財政出動が決まっている。これは米国内総生産(GDP)の約15%に相当する規模だが、議会では更に第5弾や第6弾の議論も始まっており、最終的にどこまで財政支出が拡大するのか分からない状態に陥っている。

これと同様の動きは世界同時金融危機が発生した当時にも観測されているが、2019年の場合だと、GDP比で13.2%の財政赤字が発生し、同年の金相場は前年比で24.8%上昇した。今年は、その19年よりも更に深刻な財政環境に陥るのが必至の状況になっている。

こうした財政環境を維持できるのは、米連邦準備制度理事会(FRB)が無制限の量的緩和政策を展開し、国債増発を引き受ける構図が出来上がっているためだ。FRBは過去に例のない規模でバランスシートを拡大させているが、現在の財政環境にあっては、量的緩和の縮小・停止を決断するのは難しい情勢になっている。

このため、大規模な財政出動と過去最大規模の金融緩和は、新型コロナウイルス対策の両輪として機能することになり、一方だけを止めるようなことはできない状況になっている。このまま財政政策と金融政策が拡張し続ければ、米国債やドルに対する信認を維持できるのかも問われることになる。世界同時金融危機後には欧州で債務危機、米国で財政の崖問題が発生したことは記憶に新しい。

 目先は経済活動の正常化で短期筋の調整売りが膨らむリスクを抱えているが、新型コロナウイルスの感染被害によって発生した経済的混乱状況は年単位で長期化する見通しであり、金市場に対する資金流入傾向は維持され易い。
(2020/04/30執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年05月04日「私の相場観」

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