原油価格がマイナス化した衝撃
米内陸部の貯蔵能力が限界に

4月20日のNY原油先物市場では、受け渡しまでの期間が最も短い5月限が、一時マイナス40.32ドルまで急落した。原油価格がマイナス化したのは、歴史上初めてのことである。通常、原油価格がマイナス化するようなことはないが、これは原油の売り手が1バレル当たり40.32ドルを支払うことで、買い手に原油を引き取ってもらう取引になる。膨大なコストを掛けて生産した原油を、無料のみならず追加の代金を支払ってでも、引き取ってもらわなければならない状況に陥っているのだ。

背景にあるのは、新型コロナウイルスの影響で需要環境が崩壊状態に陥る一方、生産調整が遅れていることだ。米国内ではガソリン需要が前年同期比で40%以上減少しているが、シェールオイルの生産調整は遅れている。既に売却価格を固定するヘッジ取引が行われていることに加えて、一旦操業を停止した際の再開コストが極めて高いため、原油相場の低迷でも緩やかなペースでしか生産調整が進まない状況にある。

この結果、米国内の原油在庫は急増しており、特にNY原油先物の受け渡し場所であるオクラホマ州クッシング地区で、在庫貯蔵能力の限界を迎えるのではないかとの危機感が強くなっている。4月17日時点のクッシング地区の原油在庫は5974万バレルとなっているが、このままのペースで在庫の積み増しが続くと、5月中には貯蔵能力の限界である7900万バレルに到達する可能性がある。このため、売り手は在庫売却を急ぐ一方、買い手はそもそも購入しても在庫保管場所を確保できない状態に陥っているため、マイナス価格まで値下りしても売買が成立しづらい状況に陥っている。

 原油価格のマイナス化は、あくまでもNY原油の5月限に限定された動きであり、日本で主に取引されている中東産原油はマイナス化していない。北海ブレント原油もプラス圏を維持している。このため、世界的にみて原油価格がゼロを下回っている訳ではないが、米国内需給の歪みが特に深刻化していることを象徴する動きとして注意が必要な状況になっている。

 今後のマーケットの関心は、5月限に続いて6月限もマイナス化する事態を回避できるかになっているが、先行きは楽観視できない。在庫貯蔵能力の限界が、5月限がマイナス化した主因であれば、在庫環境を正常化していかない限り、6月限でも同じ問題が生じる可能性があるためだ。

 しかし、現状では新型コロナウイルスの終息が実現した訳ではなく、輸送用エネルギー需要環境の正常化が今後1カ月の間に実現するのかは不透明感が強い。需要が十分に回復しないのであれば、シェールオイルは生産されても保管場所を確保できない一種の「産業廃棄物」と化すことになり、シェール産業の生産を本格的に減少させるため、異常な安値が正当化される余地がある。
(2020/04/23執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年04月27日「私の相場観」

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