地政学リスク一服でも金は堅調
低金利環境の支援が続く

代表的な安全資産である金が、底固く推移している。中東の地政学リスクの消化が一巡し、米国株が改めて過去最高値を更新するリスクオン環境にあっても、高値圏を維持している。

2020年のNY金先物相場は、年初の1オンス=1521ドルに対して、1月8日には1613ドルまで急伸し、2013年3月以来の高値を更新した。米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害し、それに対してイラン軍が米軍基地報復を行ったことで、米国とイランが本格的な軍事衝突に突入するリスクが警戒された結果である。しかし、その後は米国とイランがともに戦線拡大に慎重姿勢を見せたことで、リスク投資環境は落ち着きを取り戻し、投資家のリスク選好性が回復している。まだ中東では偶発的な軍事衝突が発生する可能性があり、イランの核開発を巡る中東情勢の不安定化も続くことになる。ただ、「戦争」のリスクが軽減され、2003年のイラク戦争直前のような不安心理がマーケットに広がることが回避できるのであれば、地政学リスク主導で金相場が急伸する必要性は薄れることになる。

一方で、金相場が1550ドル水準から大きな値崩れを回避しているのは、地政学リスクに対する警戒感の影響のみではない。株価が過去最高値を更新する環境にあっても、一向に上昇しない金利環境からの強力な支援を受けているのだ。一般的には株価が高騰するような経済環境にあっては、長期金利に対して上昇圧力が強まり、それが金相場の上値を圧迫することになる。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年に3度にわたる予防的利下げを実施したばかりであり、まだ早期に利上げに着手できるほどに実体経済は強くないとみている。昨年12月時点の当局者のコンセンサスとしては、2020年中に金利政策の変更は想定されていないが、低インフレ環境が続いていることもあり、一部当局者は次の政策変更は「利上げ」ではなく「利下げ」と予想している。

しかも、FRBは短期金融市場の安定化目的の流動性供給を続けており、FRBのバランスシートは膨張している。現状では、レポ金利の急騰再開を辛うじて阻止している状態にあり、バランスシートの拡大停止、縮小を巡る議論は先送りされ易い。今後は短期債のみならず長期債も購入対象に含める可能性があり、流動性供給と量的緩和(QE)の垣根が低下する中、「ステルスQE4」との評価は更に広がりを見せよう。

株高と低金利環境が共存するマーケット環境は資産バブルのリスクを高めることになり、株高環境でも金に対する退避ニーズを創出することになる。加えて、現在は実質金利が辛うじてプラス圏を維持している状態にあり、低金利環境そのものも、無金利・無配当資産である金価格をサポートする。地政学リスク一服を前提にしても、金価格は高止まりが続き易い。
(2020/01/16執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年01月20日「私の相場観」

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