金を本格購入し始めた中央銀行
ニクソン・ショック以来の規模

金は宝飾や工業用のいわゆる加工用需要の他に、地金・コイン・上場投資信託(ETF)などの投資需要が存在する。そして、他のコモディティにはないもう一つの需要項目として、中央銀行など公的部門の購入がある。

中央銀行は対外債務の返済、輸入代金の決算などを目的に外貨準備を保有しており、金本位制が崩れた後は国際基軸通貨のドルを通常だと短期米国債の形で保有して運用することになる。近年はドルへの一極集中に対する警戒感からユーロや英ポンド、円、更には豪ドルやカナダドル、中国人民元などに分散されることもあるが、特に問題がなければ無リスクで流動性が最も高い米国債が選択されることになる。一方で、各国中央銀行は伝統的に金準備も保有しており、その時々の運用政策によって金を購入したり売却したりする。1990年台にはイングランド銀行(英中央銀行)などの金売却の動きが、金価格の歴史的低迷の一因になったと言われている。

通常だとあまり注目されることのない需要項目だが、ここ数年は金総需要の10%前後が中央銀行によって吸収される傾向にある。この公的部門の金需要だが、2018年は651.5トンとなり、17年の274.8トンから74%もの急増となっている。これは1971年のニクソン・ショックで金とドルとの兌換が停止され、ブレトン・ウッズ体制に終止符が打たれた時以来の規模の大きさである。

一般的に、金は配当や利息収入を生まないため、必ずしも投資対象としては優位性があるものとは言えない。しかし、配当や利息を生まないということは発行体が存在しないことを意味し、通貨や国債などとは完全に異なる世界に位置付けられる特殊な資産になっている。中央銀行は外貨準備の安定化のために、近年は通貨間の投資分散を進めており、その選択肢の一つに金も存在しているが、18年は突然にその勢いは加速したのだ。

これは、明らかにドル・米国債に対する不信任が中央銀行の世界で広がっていることを意味する。米国のトランプ政権は誕生してから既に3年が経過しているが、2年目となる18年は中国との貿易戦争を本格化させるなど、「アメリカ・ファースト」を実現するために対外的な強硬姿勢が目立った。こうした中、米国と対立を深めたロシアが米国債から金に中央銀行のポートフォリオの大変革を行ったが、それと同様の動きが世界的に広がりを見せたのが18年だった。

そして、ここ最近は中国が外貨準備高が安定しているにもかかわらず、米国債の売却を進めている。昨年12月には約2年半ぶりに中国人民銀行が金準備の積み増しに動いている。民間投資家とは別の視点で中央銀行は動いているが、仮に19年も公的部門の金需要が更に上振れするようなことがあると、投資環境とは別に需給要因からも金価格は上昇し易い環境になろう。
(2019/02/13執筆)

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2019年2月18日「私の相場観」

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