原油価格急落でも減産を拒否するロシアが考えていること

国際原油価格が急落する中、マーケットの焦点は産油国が一致して減産対応を見せることができるか否かになっている。

国際エネルギー機関(IEA)は、最近の増産によってイラン産原油の供給減少に対応するための「ミッションは終わった」と総括し、仮に石油輸出国機構(OPEC)の産油量が現行水準を維持した場合、2019年は需要期も含めた年間を通じて供給過剰になるとの見方を示したている。

また、OPECの月例報告でも2019年には需要が日量129万バレル増加するものの、非OPECの供給量が223万バレル増加する結果、OPEC産原油に対する需要は18年の3,259万バレルから19年には3,154万バレルまで105万バレル減少するとの強い危機感を示している。10月時点のOPEC産油量は3,290万バレルであり、仮にこのままOPECが何も行動を起こさなければ、19年は136万バレルの供給過剰状態に陥るとの見通しになる。

世界の石油在庫は急速に減少しているとは言え、14年の原油相場急落前と比較すると依然として高水準である。経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫をみても、原油価格急落前が26億~27億バレル程度だったのが、足元では28億~29億ドル水準になっている。大規模な供給不足状態を作り出す必要性は薄れているが、まだ原油需給リバランスのプロセスが完結したとまでは言えない。

このため、OPECやロシアなどが展開している協調減産の監視委員会(JMMC)では、サウジアラビアが日量100万バレルの減産を提案したことが明らかにされている。また、140万バレルの減産案が協議されたとの報道もある。OPECの想定しているOPEC産原油への需要が約100万バレル減少すること、想定される過剰供給幅が約140万バレルであることを考慮すれば、こうした数値の提案に違和感はない。

実際に、OPEC加盟国はこの提案に対してほぼ支持を表明しており、具体的の減産幅について詰めの協議はあるものの、過剰供給化に対して何らかの政策対応が必要という点では、コンセンサス形成が進んでいる。

このため、OPECやロシアが2019年も原油需給管理に責任を負うスタンスを明確化すれば、原油相場が値崩れを起こす必要性は乏しく、原油価格の急反転といった展開も想定できる。しかし実際には、ロシアが明確に減産対応を否定しているため、OPEC加盟国と非加盟国が結束して過剰供給化を阻止する方向性を打ち出せず、原油価格は下げ一服となったものの安値修正を進められない状態に陥っている。

なぜ、ロシアは原油安のリスクを高めている過剰供給見通しに対して、減産対応を拒否しているのだろうか。

■ロシアが過剰供給でも減産しない理由

ロシアのノバク・エネルギー相は、JMMCでの協議から減産議論が活発化していることに対して、ロシアは減産の必要がないと考えていると明言している。ロシアのプーチン大統領も15日、OPECとの協力は「明らかに必要だ」としつつも、記者からの減産対応の有無についての質問に対しては明言を避けた。ロシア系メディアからは、複数の政府高官が減産対応の可能性を否定しているとの報道が行われている。

理由1)

ノバク・エネルギー相は、確かに来年上期に向けては季節要因の影響で供給が過剰化する可能性があるものの、年中盤には均衡化し、逆に供給不足状態に陥る可能性があることを理由として掲げている。すなわち、供給過剰のリスクをOPECと共有していないのだ。これが現時点での公式見解である。

理由2)

財政環境の改善が進んでいる影響も大きいだろう。2017年にロシアがOPECとの協調減産に踏み切った背景には、原油収入の落ち込みで財政環境が悪化し、通貨ルーブルが急落する中、経済破綻の可能性さえ警戒された危機感があった。ウクライナ情勢を巡って欧米諸国との対立も深まる中、中東戦略へのコミット強化の流れもあってOPECとの協調に踏み切った。

しかし、ロシアの国家予算で想定されているウラル産原油は1バレル=40ドル程度であり、急落したとは言っても現在の65ドル水準であれば、必ずしも危機感は高まらない。中東との比較では、財政面での原油高要求圧力が低下しており、これ以上の原油高を必ずしも必要としていない。

実際にプーチン大統領は「現在と最近の70ドル前後の状態は、我々にとってパーフェクトだ」として、問題視していないことを明らかにしている。

理由3)

ロシア産原油に対する引き合いの強さがあり、需要減退による供給削減ニーズが高まっていないことがある。11月から米政府のイラン産原油に対する制裁が再開されたが、イラン産原油とロシア産ウラル原油と油種の面で近似性があり、イラン産原油の代替需要はウラル原油の需要を高める傾向にある。実際、足元では過剰供給が指摘されているが、アジア向けを中心にウラル原油に対するプレミアムは寧ろ上昇傾向にあり、旺盛な需要に対して供給を増やすとのロシアの戦略には合理性がある。

理由4)

また、ここにきて見え隠れしているのが米国との関係である。中間選挙で民主党が過半数を獲得した米議会では、トランプ米大統領とロシアとの不正な関係性を巡る追及が活発化しているが、11月11日にフランスで開催された第一次世界大戦終結百年に合わせて、プーチン大統領とトランプ大統領が会談を行ったことが明らかになっている。

プーチン大統領は15日、その場で「世界の石油市場」についても協議を行ったことが明らかにされている。具体的な内容は明らかにされていないが、その直後にトランプ大統領はTwitterで「サウジアラビアや石油輸出国機構(OPEC)が減産しないことを望む。供給に基づけば、石油価格はもっと下落するはずだ!」と投稿している(参考:原油相場急落でも、トランプ大統領が産油国の減産議論をけん制する理由)。

プーチン大統領からは何を話し合ったのかは明らかにされていないが、トランプ大統領側からは改めて原油価格の高騰を招くような政策を取らないように要請があったことは間違いなく、ロシアが米国との関係性の視点から政策調整を渋っている可能性がある。

理由5)

ロシアとしては、原油価格の過度の下落は望まない一方、過度の上昇は望んでいないこともある。ロシア国内では、2010年代前半の原油価格高騰が過剰投資を呼び込み、シェールオイルなどタイトオイル増産を急増させた経験の再現を警戒する声が強い。また、過度な原油高は再生可能燃料など代替エネルギー開発を加速させる可能性もあり、もちろん原油価格は歳入面では高い方が好ましいが、長期視点では既に十分な価格水準と評価している模様だ。

■今後は?

ロシアが産油政策の軸足をOPECとの協調に置いている以上、減産対応を求めるOPECの声を完全に無視することはできない。特に近年はサウジアラビアとの首脳会談などトップ外交で一気に減産対応を決めることが増えており、11月30日~12月1日の20カ国・地域(G20)首脳会合などに合わせて、何らかの意見交換が行われ、新たな動きが出てくる可能性はある。

ただ、ロシア単独の視点であれば更に5~10ドル程度の原油安は許容範囲となっている可能性が高く、12月5日のOPEC総会、加盟国・非加盟国との会合に向けて、まだロシアの減産合意を取り付けることができるのか不確実性が大きい。仮にロシアが減産対応を拒否し続ければ、OPECのみで減産対応を強化する可能性は低く、原油価格の低迷状態は長引くことになる。OPEC総会までにロシアが減産対応を決断するか否か、これが当面の原油価格動向を決定づけるだけに、現在は極めて重要な時間帯になる。

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)原油価格急落でも減産を拒否するロシアが考えていること(Yahoo!ニュース)

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