小菅努の商品アナリスト日記

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2020/07

金とビットコインの同時高が意味すること 問われる法定通貨の信認

貴金属の金に続いて、暗号資産(仮想通貨)のビットコイン価格も高騰し始めた。Refinitivのデータによると、週末の7月26日に1ビットコイン=1万ドルの節目を突破したが、28日には一時1.14万ドル台まで値上がりし、今年の最高値を更新している。既に金価格が1オンス=1,900ドル台に乗せて過去最高値更新を窺う展開になっていたが、このタイミングでのビットコイン価格の急騰は、ドルや円といった法定通貨に対する信認低下を反映した動きではないかと指摘されている。

各国通貨は法律によって強制通用力を担保されているため、一般的に法定通貨(法貨)と呼ばれることになる。究極的には国の信用が通貨価値を裏付けている。例えば、日本では日本銀行法によって「日本銀行が発行する銀行券は、法貨として無制限に通用する」とされており、国内においては日本銀行券を使った債務弁済を拒否することはできない強制力を有している。

一方、金やビットコインには管理者が存在せず、金の場合だと希少性のある実物、ビットコインの場合だと複雑なブロックチェーン技術によって、その価値が担保されている。各国の法律とは関係なく通用力を有しているため、法定通貨に対して代替通貨といった呼称もある。

金とビットコインには共に様々な価格変動要因があるため、必ずしも同一の値動きをする訳ではない。実際にここ数か月は金価格が高騰していたのに対して、ビットコイン価格には目立った変動がみられなかった。しかし、ここにきて金とビットコインが同時に高騰し始めたことは、法定通貨に対する代替性が評価され、投機マネーが金とビットコインを同時に物色し始めている可能性を示唆している。

現在、世界各国の中央銀行は新型コロナウイルス対策で強力な金融緩和策を展開中である。米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利政策に加えて無制限の資産購入策(量的金融緩和策)を展開しており、大量のマネーを供給し続けている。その一方で、米政府は巨額の財政出動を伴う大型景気対策を次々と発動しており、国の信用が損なわれかねない状態に陥っている。

マーケットでは、新型コロナウイルス対策という有事にあって、金融緩和も財政政策も容認せざるを得ないとの消極的な支持が優勢である。しかし、新型コロナウイルスが終息に向かう目途は立たず、景気も長期停滞を迫られるのではないかとの警戒感は根強い。低金利環境は長期化の様相を呈しており、インフレ率を考慮に入れた実質ベースだと米国も含めてマイナス金利状態に陥っている国も少なくない。

しかも、米国はこのタイミングで米中関係の緊迫化を促しており、これまでの「有事のドル買い」が、ここにきて「有事のドル売り」に転換し始めている。投資家のドル資産に向ける視線は厳しさを増しており、従来の法定通貨間における安全通貨とリスク通貨との区分では対応できない状況に陥り始めている。

ドル急落、金価格高騰、ビットコイン価格高騰が同時に進行していることは、マーケットが法定通貨に対して不信認を突き付け始めた危険な兆候とみるべきなのかもしれない。金もビットコインも保有しているだけでは金利などを収入を生むことがないが、それでもドルを金やビットコインに交換しておきたいと考える向きが増え始めているのだ。
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

※図表はリンク先の記事参照。

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米中「新冷戦」への警戒織り込む金価格 過去最高値を更新中

金価格の高騰が続いている。NY金先物相場は7月中旬の1オンス=1,800ドル水準に対して、7月24日の取引では1,930ドルまで値上がりしている。2011年9月に付けた1,923.70ドルを上抜き、過去最高値を更新している。年初の1,521ドルから既に400ドルを超える値上りになっている。円建て金先物相場も、年初の1グラム=5,303円に対して6,500円台まで値上がりしており、こちらも金先物取引開始以来の過去最高値を更新し続けている。

ここにきて金相場の高騰が進んでいる背景にあるのは、米中対立の激化だ。米政府は、テキサス州ヒューストンの中国総領事館が知的財産権や個人情報侵害の拠点になっているとして、同施設の閉鎖を命じた。これに対して、中国政府は四川省成都の米総領事館閉鎖を命じており、両国が在外公館の閉鎖を命じ合う「開戦前夜」とも言える動きが、金市場に対する資金流入を促している。

香港の自治を否定する香港国家安全法の導入を巡って欧米諸国と中国との政治対立は激しさを増していたが、米政府はポンペオ国務長官主導で南シナ海での中国の領有権主張の拒絶、第5世代(5G)通信システムから中国企業の排除などの「共通原則」で、自由主義諸国に対して協調を求めている。欧州やオーストラリアなど一部の国は、既にこうした動きに呼応して、対中強硬姿勢に傾斜し始めている。

米中対立は、香港情勢、台湾の自治、チベットやウイグルの人権問題、中国の海洋進出、知的財産権保護など多方面で同時に展開されているが、米中の「新冷戦」とも言われる状況が、安全資産としての金に対する投資ニーズを高めている。従来は景気への配慮もあって全面的な対立は回避されてきたが、現在は財政政策と金融政策がフル稼働の状態にあるため、経済ショックを限定できるとの計算もあるのだろう。しかも秋には大統領選挙を控えており、支持率が低下しているとの世論調査が目立つトランプ米大統領の動きも読みづらくなっている。

今年は投資リスクが高まる局面にあって、金と同様にドルを買う動きも目立っていた。しかし、米国内では新型コロナウイルスの感染被害が広がり続け、議会は大規模な景気対策の導入を続けて財政赤字は膨張し、米連邦準備制度理事会(FRB)が異例の金融緩和策で低金利とマネーストックの膨張を促す中、もはやドルが投資家の不安心理の受け皿として機能しなくなり始めている。

金相場の高騰は、換言すればドルを売って金を購入する動きが広がりを見せていることを意味し、国際基軸通貨であるドルでさえも、信認を失い始めていることが示されている。国家の信用に基づくペーパー資産では資産を防衛できないのではないかとの危機感が高まる中、実物資産である金に対する評価が高まる一方の状態になっている。

急ピッチな高騰相場が続いていることで過熱感は極めて強いだけに、値動きは荒れ易い。しかし、金価格高騰の条件は完璧に整った状態になっている。いよいよ2,000ドルといった未経験の価格ゾーンも現実的なターゲットとして見え始めている。
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

※図表はリンク先の記事参照。

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中国洪水で高騰するパーム油

中国洪水で高騰するパーム油
天然ゴムも期近に上昇圧力

 7月は九州地方で豪雨・洪水被害が観測されたが、中国や東南アジアでも豪雨が観測されている。中国の長江流域では豪雨が止まらず、河川水位の上昇から各地で洪水被害が報告されている。下流域には南京市や合肥市といった大都市が位置しているため、上流域で意図的に堤防を決壊させて、中国全体としての被害を最小限に抑えるための試みも行われている。東南アジアでも、これまでは干ばつ状態が強く警戒されていたが、マレーシアやインドネシアでは豪雨による農作業への影響が報告され始めている。

 今回の中国から東南アジアにかけての洪水被害に対して特に強く反応しているのがパーム油相場だ。本来であれば生産量が最も伸びる時期に向かう局面だが、豪雨の影響で収穫作業に影響が生じており、集荷に遅れが報告されている。しかも、新型コロナウイルスの影響で外国人労働者の入国規制が解除されていないため、パーム油農園では労働力不足が深刻化している。マレーシアでは業界団体が政府に対して対応を求めているが、今後数か月のイールドが最大で25%減少するといった試算も出始めている。MPOCパーム油先物相場は、5月6日の1トン=1939リンギットで底入れし、その後は新型コロナウイルスの収穫による需要環境の改善と歩調を合わせて、2400リンギット水準まで反発して、上げ一服となっていた。しかし、中国と東南アジアで豪雨・洪水被害が発生すると、一気に2600リンギット台まで急伸し、約5カ月ぶりの高値を更新している。バイオディーゼルや食用油価格の上昇が直ちに国内での植物油価格高騰を促す訳ではないが、供給サイドの混乱が目立ち始めていることには注意が求められる。

 これと同じ論理で、天然ゴム価格に対しても押し上げ圧力が発生している。JPXゴム先物相場は、期先限月だと1kg=150円台後半をコアに方向性を欠く展開が続いている。需要が最悪期を脱したとの見方がある一方、依然として新型コロナウイルスの感染被害が拡大し続ける中、上値追いには慎重姿勢が目立つ。

 しかし、期近限月では産地主導の上昇圧力が観測されており、当限は7月上旬の140円台前半に対して、150円台中盤まで値上がりしている。これは約4カ月ぶりの高値更新になる。当先の順サヤ(期近安・期先高)が急速に縮小しており、新型コロナウイルスがもたらした需給緩和圧力が、需要環境の回復と供給不安の同時進行によって、解消に向かっていることが確認できる。

 新型コロナウイルスの感染被害は依然として猛威を奮っているため、需要動向によっては改めて下押し圧力が強まる可能性は残されている。一方で、このまま需要回復に波があっても正常化に向かう一方、天候不順や労働力不足による供給不安が維持されると、ゴム相場も当限に続いて期先限月に対して買い圧力が強まる可能性が高まる。逆サヤへの転換で、現物市場主導の上昇が本格化する可能性も想定しておきたい。
(2020/07/22執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年07月27日「私の相場観」

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13年越し悲願の「総合取引所」誕生 市場関係者の期待と不安

日本取引所グループ(JPX)は7月27日、貴金属とゴム、農産物の取引を東京商品取引所から大阪取引所に移管した。商品先物取引と証券デリバティブを一体で取り扱う「総合取引所」が始動している。

「総合取引所」の狙いは、日本市場の国際競争力の強化だ。世界の取引所は、証券と商品のデリバティブを一元的に取り扱うのが主流であり、日本のみが証券と商品を区別して取り扱う状態を続けると、市場の地盤沈下が進みかねないとの懸念がある。世界では証券と同様に商品デリバティブ市場の拡大が進んでいるが、日本では勧誘規制強化などの影響で逆に市場の縮小が続き、東京商品取引所は連続の赤字で市場の存続が危ぶまれる状況になっていた。

政府の経済財政改革の基本方針では、2007年の段階で取引所の「総合的に幅広い品ぞろえ」を明記していたが、監督官庁の権限争いなどの影響もあり、実現には10年以上の歳月が必要とされた。しかし、今後は大阪取引所において日経平均先物などと金をはじめとした商品先物を同じ口座で取引できる環境が整備されることになり、投資家にとっては大きなメリットが生まれる。値動きの異なる株と商品のデリバティブを機動的に取り扱うことができれば、利便性は増す。日経平均先物と金先物を組み合わせた売買なども可能になる。

また、既に2019年1月にはJPXが東京商品取引所を子会社化しているが、「総合取引所」によって信用性や流動性の向上が実現すれば、海外投資家のマネーを呼び込むことで、商品先物のみならず証券も含めた日本のデリバティブ市場全体の活性化も期待できることになる。商品先物は世界各国で国際的な取引が行われているため、各国市場との裁定取引(アービトラージ)といった新たな投資ニーズの創出も期待されている。

国内の商品先物の売買高は過去15年で5分の1以下にまで落ち込み、市場関係者の間では遅過ぎたといった声もあることは事実である。原油などエネルギー先物は従来通りに東京商品取引所で取引が行われるため、「総合取引所」でも商品先物の主力である原油が取り扱えないことに対して、批判や不満の声はある。また、厳しい勧誘規制には変化がないため、総合取引所によって直ちに国内商品先物が活性化し、日本市場全体の成長加速につながるのかは不透明感もある。

しかし、これまで取引規模が縮小し、地盤沈下が進む一方だった商品先物は、「総合取引所」のスタートによって大きな転換期を迎えている。日本からの商品指標価格の発信、ヘッジや投資の場の提供に留まらず、日本のデリバティブ市場全体の底上げのきっかけになり得る動きとして、市場関係者の期待は高まっている。


【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

※図表はリンク先の記事参照。

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新型コロナで高騰する金

新型コロナで高騰する金
景気見通しの不確実性増す

 内外の金価格が高騰している。NY金先物相場は6月下旬に1オンス=1800ドルの節目を突破し、2011年9月以来の高値を更新している。また、東京金先物相場は年初の1グラム=5303円に対して6200円台まで上昇している。東京金先物取引開始後の最高値を更新し続けている。

 7月入りしてからの急伸地合に関しては、改めて新型コロナウイルスの感染被害が拡大している影響が大きい。国内でも新規感染者数が増加に転じているが、特に米国では南部から西部にかけて深刻な感染被害の広がりが報告されている。連日のように新規感染者数が急増しており、経済見通しに不確実性が強くなっている。

 従来は、感染被害の終息に伴い経済活動は正常化に向かい、景気はV字型の切り返しに向かうとの楽観的な見方が優勢だった。しかし、感染対策で改めて経済活動を抑制せざるを得ない状況に陥る中、景気見通しが急激に悪化する可能性が高まっている。短期経済指標の悪化が報告されており、複数の米金融当局者が、景況感の急激な悪化を報告し始めている。

 新型コロナウイルスの感染状況が景気回復ペースを決定づける状況になる中、セントルイス連銀ブラード総裁やダラス連銀カプラン総裁は、マスク着用など公衆衛生面での対策強化を強く訴えている。新型コロナウイルスのワクチンや治療薬開発には依然として時間が必要なため、当面の最も効果が得られる可能性がある衛生対策はマスク着用になっている。そして、それは同時に最大の景気対策にもなっている。トランプ米大統領も、これまで拒否し続けてきたマスク着用を開始している。

 7月28~29日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されるが、金融緩和政策の強化が決定される可能性がある。前回会合では、インフレ率と失業率が目標に達するまで金融緩和措置を継続する方針を示すフォワード・ガイダンス強化について、協議が行われていたことが確認されている。改めて金利低下圧力が強まれば、金市場に対する資金流入傾向は維持され易い。

 一方、株価は高止まりし、ボラティリティ指数(恐怖指数)は抑制されており、投資家のリスク選好性は必ずしも大きく損なわれていない。このため、リスク資産売りの受け皿として金が買われている訳ではない。しかし、マーケットでは新型コロナウイルスのリスクを十分に消化できていないのではないかとの危機感が強く、株高・低ボラティリティ環境が、逆に金に対する投機マネー流入の動きを促している。国際通貨基金(IMF)も実体経済とリスク資産との乖離が過去最大に達しているとして、将来の金融環境の不安定化につながるリスクを強く警告している。1800ドル台到達で短期的な目標達成感もあるが、持ち高調整をこなしながら一段高を打診する展開が維持されよう。
(2020/07/15執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年07月20日「私の相場観」

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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