小菅努の商品アナリスト日記

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2020/03

新型コロナで供給不安も浮上

新型コロナで供給不安も浮上
突然に供給が急減するリスク

新型コロナウイルスの感染被害は依然として拡大中だが、コモディティ市場に対する影響については微妙な変化が観測され始めている。当初の「需要リスク」中心の議論から「供給リスク」についても関心を払う必要性が高まっているのだ。

新型コロナウイルスは経済活動に深刻な被害を及ぼすため、コモディティ市場では需要がどこまで下振れするのかが最大の関心事になっていた。ヒトやモノの移動が制限されれば輸送用エネルギー需要が大きなダメージを受けることになり、ガソリン価格は急落している。また、消費者マインドの悪化で新車販売が落ち込めば、排ガス触媒用のプラチナ、タイヤ用の天然ゴム価格が下落することになる。1月以降はこうした需要サイドのリスクを織り込む動きが、コモディティ相場を断続的に下押ししてきた。これと同様の現象は、2008~09年の世界同時金融危機の際にも観測されたが、需要がどこまで落ち込むのか分からないという不安心理が、パニック的とも言える相場急落をもたらした。

一方、世界同時金融危機と今回の新型コロナウイルスで大きく異なるのは、新型コロナウイルスは需要環境と同時に供給環境にも大きなリスクをもたらすことだ。例えば、現在は世界各地で感染被害の拡大を防止するためのロックダウン(都市封鎖)が行われているが、中南米では農産物輸出への影響が警戒されている。農業や輸送インフラ系の業務はロックダウンの対象から外されることが多いが、感染リスクの高まりから収穫や輸送、更には港湾業務にも影響が生じ始めている。例えばブラジルが主産地となるアラビカコーヒーの場合だと、ブラジルの出荷が止まるリスクに備えて在庫手当を強化する動きも報告されており、潤沢な国際供給環境にありながらも、短期需給ひっ迫リスクが強く警戒されている。また、南アフリカもロックダウンの影響で鉱山の操業停止が警戒されており、プラチナやパラジウムの供給が3週間にわたって完全停止するリスクが浮上している。金や非鉄金属などの鉱山でも同様のリスクが高まっており、供給が突然にストップするリスクを抱えた状態になっている。

 これまでは、新型コロナウイルスの「需要リスク」だけを議論しておけば十分だったが、感染被害が一段と深刻化する中、突然に「供給リスク」の存在感が増し始めている。経済活動の停滞が、消費環境から生産環境にも波及し始めていることが明確に確認できる状況になっている。

 現状では、世界的に食糧供給が途絶えるようなパニック状態を引き起こすリスクが高まっている訳ではない。世界全体で食糧生産、輸送が一斉に停止するような状況は現実的ではない。しかし、特に労働集約型の産業である鉱物資源や天然ゴム、コーヒー、ココア、パーム油などの供給に関しては、突然に下振れするようなリスクを想定しておく必要が浮上している。
(2020/03/26執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年03月30日「私の相場観」

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VIXショックで金も急落

VIXショックで金も急落
リスク資産も安全資産も売り


新型コロナウイルスの感染被害拡大は、投資環境に対して極度の先行き不透明感をもたらしている。市民生活のみならず世界経済にとっても大きなリスクになっていることは間違いないが、そのリスクが実際にどの程度のレベルのものなのかは、誰も判断できない状況に陥っている。新型コロナイルスの感染被害が終息に向かうのか否か、終息に向かうとすればどのような軌道を描くのか、マーケットは既に予測を放棄してしまっている。当初は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)などが先行事例として利用できるのではないかと期待されていたが、実際の感染力も致死率も良く分からないままに時間ばかりが過ぎていく状況になっている。


こうした不確実性が現れるマーケットがボラティリティ指数(恐怖指数、VIX)になるが、同指数は2月上旬の15ポイント水準に対して、3月16日には80ポイントを上回る異常事態になった。VIXが終値で80ポイントを上回ったことは過去に二度しかなく、一回目が08年の世界同時金融危機、そして二回目が今回の新型コロナウイルスの危機になる。マーケットの歴史上、過去に殆ど経験したことのない不確実性に直面していることが確認できる。


一般的にVIXの上昇局面では株価が急落していることが多く、通常だと株式や原油などのリスク資産から、金や米国債などの安全資産に対する資金シフトが促されることになる。実際に、VIX上昇の初期段階では金が積極的に買われており、3月9日には1オンス=1704.30ドルと2012年12月以来の高値を更新していた。しかし、更にVIXが上昇を続けて50ポイントを上回るような状態になると、金市場からも資金を引き揚げる動きが活発化した。


極端な高ボラティリティ環境で、株価が瞬時に急騰・急落するリスクを抱えた状態になる中、多くのマクロファンドが許容できるリスクの限界を突破したと評価したためだ。この結果、株式相場が売られたのはもちろん、米国債、コモディティ市場では金やプラチナから農産物まで全面安の展開になった。ファンダメンタルズからみて割安や下げ過ぎとの指摘も聞かれたが、マーケットの関心はリスク削減の一点に集中し、いわゆる「キャッシュ化」の動きが優勢になっている。VIXの高騰が一服するまでは、コモディティ市場は金も含めて全面安の展開を強いられることになる。これは、08年のVIX高騰時にも観測されている値動きである。


一方、その08年の経験からは、VIXのピークアウトと同時に、金相場は底入れして上昇相場に回帰することになる。実体経済の減速、金融政策の緩和、財政拡張など、金相場のファンダメンタルズは一段と強気に傾いており、特に米連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利政策と量的緩和政策を再開していることは、将来的な上昇リスクを高める。

(2020/03/19執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年03月23日「私の相場観」

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有事の小麦買い? 小麦先物価格が3日で10%上昇

小麦の国際価格が、突然に急伸し始めた。シカゴ小麦先物価格(中心限月)は、3月16日に1Bu(ブッシェル、1Bu=27.215kg)=492.00セントと昨年10月11日以来の安値を更新していたが、19日の取引では一時541.00セントまで、僅か3日で最大10.0%の急伸地合になっている。

今年は潤沢な国際供給環境、また株価や原油価格急落による投資環境の悪化もあり、小麦価格はほぼ一貫して値下りしていた。原油価格急落の影響でエタノール需要減少の思惑からトウモロコシ価格が急落したこともあり、小麦価格も値下り傾向が目立っていた。しかし、今週に入ってから突然に安値修正の動きが強まり、主要なマーケット価格が軒並み急落する中で、小麦価格は際立って異常な値動きをみせている。

その背景として指摘されているのが、新型コロナウイルスの感染被害拡大を受けて、消費者が小麦を原料とする食料品を買いだめしている影響だ。新型コロナウイルスの感染被害の中心が中国から欧米に移動する中、欧米諸国は入国規制の強化と同時に、国内でも外出規制の動きを強め始めている。例えば米ニューヨーク州では3月15日にレストラン、バー、カフェなどの18:00以降の営業禁止が決められ、外食産業が壊滅的被害を受けている。

こうした中、消費者は食料品や日用品などの買いだめを進める動きを強めている。欧米では、その買いだめ行動の対象にパスタやパンがあり、短期的に原料である小麦の需要が急増するとの観測が広がっているのだ。

供給には問題がないと各国政府や食品各社が発表しているが、店頭での需要が短期的に急増する中、品薄感が更に需要を押し上げる状況になっている。正確な統計はないが、パスタ売上高が突然に100%増えたといった報告も目立つ。日本で、数週間前にみられて漸く終息に向かっているトイレットペーパーの買いだめに近い現象が観測されている。

コモディティ市場では、「有事の金買い」という言葉があるが、足元の金価格は投資家のキャッシュを求める動きから急落している。穀物や農産物市場にとっても、基本的には経済環境の不安定化はネガティブ材料と評価される傾向が強い。しかし、現在は「有事の小麦買い」とも言える異常な現象が観測されている。過去にはあまり見たことのない値動きであり、新型コロナウイルスの感染被害がコモディティ市場に与える影響の特殊性が、よく窺える状況になっている。

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

※図表はリンク先の記事参照。

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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