小菅努の商品アナリスト日記

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2020年02月

株価急落局面で金価格も急落している「謎」

世界の株価が急落する中で、安全資産の代表格である金価格が下落する一見すると「奇妙」な現象が観測されている。指標となるNY金先物価格は、2月24日の1オンス=1,691.70ドルをピークに、28日の欧州タイムには1,630ドル水準まで急落している。27日の米株式市場ではダウ工業平均株価が過去最大の下げ幅を記録し、日経平均株価も25~28日の1週間で世界同時金融危機が発生した2008年10月以来の下げ幅を記録する中にあって、金価格が急落しているのである。

一般的な理解では、金は「安全資産」と言われるため、株価急落局面では買われることになる。株式市場から金市場に対する資金流入というのは、極めて分かり易い教科書的なロジックである。実際に、2月は株価急落環境において、米国債などと同様に金が安全性を高く評価されて買われていたことは間違いない。NY金先物価格は、2013年1月以来の高値を更新している。

では、なぜ足元では株価急落にもかかわらず、金が買われるのではなく、売られているのだろうか。考えられるのは、投資家がキャッシュなどの流動性を確保する目的で、金を売却している可能性である。

世界的に株価がパニック的な急落となる中、投資家は株式市場における含み損(=確定していない帳簿上の損失)への対応を迫られている。特に、先物取引などのデリバティブ取引では、元本以上の投資が可能なため、相場が予想の反対方向に向かうと、含み損への対応で新たなキャッシュが求められることになる。これを専門用語で「マージン・コール(追い証拠金)」と言うが、追加の「マージン(証拠金)」を要求する「コール(連絡)」が来て、ポジションの維持・決済のためにキャッシュが必要となるのだ。

これが現在は世界規模で発生しており、投資家は株式市場で発生した損失の穴埋めを行う必要性に迫られている。その際に、7年1ヵ月ぶりの高値圏にあり、多くの投資家が含み益を抱えている金が、売却対象になっている可能性があるのだ。

金市場を取り巻く環境をみれば、株価は急落し、米長期金利は過去最低を更新し、ドルが反落傾向を強めるなど、買い材料ばかりが目立つ状況にある。このため、金価格のファンダメンタルズは寧ろ強気に傾いており、更なる高騰相場を支持していると言える。しかし、流動性確保が最優先される局面においては、金価格に対して強気でも、金を売却せざるを得ない状況に追い込まれることもある。

実はこうした現象は世界同時金融危機の際にも観測されている。世界同時金融危機の際は、初期段階では金は安全資産として買われていた。しかし、株価がパニック的な急落を開始すると、株式市場などの損失を補填するために、金も売却されて急落したのである。これは、「有事」でも金は常に流動性を確保できる高い信頼性を有している結果であり、決して金の安全資産性が否定されている訳ではない。ただ、パニック状態に陥った際には、「安全資産」の金も売られることがある。

足元の金相場急落に関しては、最近の急ピッチな上昇相場の反動に過ぎない可能性も十分にある。しかし、仮に株価急落と歩調を合わせる形で金価格も急落する状況が継続し、本格化するのであれば、それはいわゆる「リーマンショック級」の危機が発生していることを意味することになる。株価急落がメディアでは大きく取り上げられているが、その環境下で金価格が急落していることは、極めて不気味な現象である。

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

※図表はリンク先の記事参照。

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新型コロナで原油価格が今年最安値を更新、本格化する産油国の調整

新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済の先行き不透明感が強まる中、原油価格が改めて値下がりしている。指標となるNY原油先物価格は、2月4日の1バレル=49.31ドルで下げ一服となり、20日の54.66ドルまで急反発していたが、25日の取引で再び50ドルの節目を割り込み、26日は昨年1月以来の安値となる49ドル台中盤まで値下がりしている。

中国における新規感染者数の増加ペースが鈍化する中、2月中旬は新型コロナウイルスの感染被害が徐々に終息に向かい、世界経済も段階的に正常化に向かうとの期待感が強くなっていた。しかし、22日以降は韓国、イタリア、イランなどで感染経路が把握できない新規感染者が大量に報告されていることで、中国から世界各地への感染被害拡大が進んでいるとの警戒感が広がっている。

ここで注目されるのは、産油国の動向だ。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどのいわゆるOPECプラスは、追加減産対応の議論を行っているが、結論を出すことができていない。2月4~6日に開催された合同専門委員会(JTC)では、昨年12月に日量120万バレルから170万バレルまで拡大した協調減産枠を、更に50万バレル拡大することが勧告された。

中国を筆頭に世界経済が急減速したことで、石油需要見通しも急激に悪化し、国際原油需給バランス・価格が不安定化していることに対応するものである。OPEC加盟国は総じてJTCの勧告内容を受け入れているが、ロシアが更に減産規模を拡大することに慎重姿勢を崩しておらず、未だに明確な態度を示すことができていない。当初はJTCの勧告に対して1週間程度で立場を明らかにするとしていたが、3月6日に予定されているOPECプラス会合に結論を先送りしている。

OPECは原油価格の急落に強い危機感を抱いており、当初は2月中旬にも緊急会合を開催して、直ちに追加減産を実行に移し、原油需給・価格の安定化を目指す意向を有していた。しかし、ロシア国内では追加減産による市場シェアの喪失にも強い警戒感があり、減産期間の延長には理解を示しているものの、減産規模の拡大には慎重姿勢を示していない。追加減産勧告に対する態度を保留したまま、時間ばかりが経過している状況にある。

こうした中、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は25日、「OPECプラスは責任のある対応を行うと信じている」として、間接的にロシアに対して追加減産対応への支持表明を促した。ロシア政府と協議を続けており、協調関係には自信を持っているとして、原油需給・価格の安定化にOPECプラスが協調対応を継続するとの見通しを示した。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の電子版は21日、新型コロナウイルスへの対応でサウジアラビアとロシアとの間に意見対立があり、OPECとロシアの協調関係が終わる可能性を報じている。アブドルアジズ・エネルギー相は「全くばかげている」とこの報道を完全否定している。しかし、ロシアが3月6日の会合までに減産規模の拡大に支持表明ができない場合、1)更に協議を継続するのか、2)ロシア抜きでOPECのみで追加減産を実施するのか、3)OPECとロシアの協調関係を終了させるのか、サウジアラビアは極めて難しい選択を迫られることになる。

サウジアラビアとロシアの協力関係は、中東における米国のプレゼンスが低下しているここ数年、石油政策のみならず政治、経済、軍事と広範囲にわたっており強化されている。このため、簡単に石油政策における協調関係が破綻になる可能性は低いが、来週にかけてのロシアの動向は極めて大きな意味を持つことになる。

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)新型コロナで原油価格が今年最安値を更新、本格化する産油国の調整(Yahoo!ニュース)
※図表はリンク先の記事参照。

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パラジウム相場の高騰再開

パラジウム相場の高騰再開
根強い供給不足への危機感

NYパラジウム相場が過去最高値を更新している。新型コロナウイルスの影響で中国では自動車生産・販売環境に大きな混乱が見受けられ、自動車排ガス触媒用の貴金属需要は下振れリスクが強く警戒される状況になっている。しかし、パラジウム市場では昨年に続く需給ひっ迫化に対して根強い警戒感があり、押し目買い優勢の地合が維持されている。年初の1オンス=1912ドルに対して、2月19日には2700ドルを突破する急伸地合が形成されている。

直接的なきっかけとしては、英精錬大手ジョンソン・マッセイが、2020年のパラジウム需給のひっ迫状態が続くとの見通しを示した影響が大きいだろう。中国や欧州などの排ガス規制が強化される中、ガソリン車用触媒の平均充填量は増加するとみられている。自動車業界では高価なパラジウム消費量を削減するための試みも始まっており、一部自動車メーカーは猿人からの排出物質を削減するための新たなプラットフォーム導入などによって、充填量の削減に成功している。ただ、排ガス規制強化に加えて、欧州では実路走行(RDE)試験の基準対応という新たな課題にも直面する中、自動車触媒用のパラジウム需要の急増傾向には歯止めが掛からない見通しになっている。欧州に関しては、1台当たりの充填量が二桁増になるといった推計もある。

電子部品分野でもパラジウム相場の高騰は問題になっており、金やニッケルなどの代替素材での対応も検討はされている。ただ、技術面で乗り越えるべきハードルが高いことに加えて、仮に代替素材を使う場合には工場のライン変更など大規模な設備投資が要求されることになり、価格高騰がパラジウム需要を抑制する動きは限定される見通しになっている。歯科分野では、パラジウム合金からセラミックなどへの需要シフトの動きも北米を中心に報告されているが、総需要に対する影響は限定される。
パラジウム相場の高騰を受けて、増産計画も増えているが、鉱山会社の合理化の動きから生産量の大幅な伸びは想定されていない。パイプライン在庫の放出なども継続するが、需要拡大圧力をカバーできるだけの供給量を確保できるのかは不透明感が強い。二次供給も昨年に大幅に増加していたため、伸び悩むとみられている。

通常、コモディティ価格が高騰すると、在庫売却の動きが活発化し、相場は鎮静化することになる。しかし、パラジウムに関しては十分な余剰在庫が存在していない。近年はパラジウム上場投資信託(ETF)から現物の引き出しが行われており、ロシアも政府在庫の一部を売却しているとみられる。ただ、価格が高騰しても在庫売却量は限定され、鉱山生産量が早期に大きく上振れすることも想定しづらい。価格が高騰しても供給不足状態の解消目途が一向に立たないことが、異常な高騰相場を正当化している。未経験の需給ひっ迫環境となっているだけに、どこが適正価格なのか、誰も把握できない状態に陥っている。
(2020/02/20執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2020年02月24日「私の相場観」

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。為替、株価指数などもカバーしています。

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