小菅努の商品アナリスト日記

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2018年07月

サウジが「武器としての石油」を使うリスク

石油を武器として使用するのは、イランの専売特許ではないのかもしれません。イランは、米国の経済制裁で自国の原油輸出が阻害されれば、ペルシャ湾からの出口に位置するホルムズ海峡を封鎖する可能性を指摘しており、同海峡は国際原油供給のボトルネックとして注目されています。

一方、アラビア半島を挟んで南側に位置する紅海は、インド洋方面にバブ・エル・マンデブ海峡、地中海側にスエズ運河を有しており、こちらもいわゆる「choke point(チョークポイント)」になっています。通過する原油・石油製品の数量的には、ホルムズ海峡の日量1,900万バレルに対して、バブ・エル・マンデブ海峡は480万バレルですが、湾岸諸国側からみると欧州、そして米国向けに原油を輸出する際の重要拠点になっています。かつて第四次中東戦争の時には、エジプトが海上封鎖を行ったこともあります。

ホルムズ海峡とは異なり、バブ・エル・マンデブ海峡は必ずしもマーケットの注目度は高くありません。地域の政情が比較的安定していることもあって、同海峡封鎖のリスクは現実的ではないためです。しかし、ここにきて状況が少し変わってきています。7月26日、イスラム教シーア派(Shiite)反政府武装勢力「フーシ派(Huthi)」が、同海峡付近でサウジの石油タンカー2隻を襲撃したためです。

Reuters=Saudi Arabia halts oil exports in Red Sea lane after Houthi attacks

サウジのファリハ・エネルギー相は一時的に紅海経由の輸出を停止すると発表しましたが、マーケットは必ずしもこの問題を深刻には捉えていませんでした。攻撃を受けた船舶の除去が終わり、航行の安全が確認できれば、早期に輸出再開が可能とみられていたためです。

しかし、ここにきて8月までこの問題がずれ込む可能性が浮上しています。サウジ側からは何も発表がありませんが、時間的にみてサウジが意図的に輸出停止を長引かせている可能性が警戒されています。

サウジは従来からフーシ派との対決において、欧州や米国に対して支援を要請していましたが、大量の武器を売り込まれるだけでした。ここにきて米国とイランとの対立が先鋭化する中、イランの支援を受けるフーシ派に対しても米国や欧州と共同歩調を取ることを迫るために、敢えて紅海経由の原油輸出を停止させている可能性があります。

米国はここにきて中東への関心を急激に高めていますが(参考:「アラブ版NATO」の背後にイスラエルの影)、「米国vsイラン」、「サウジvsフーシ」の二つが合わさると「米国=サウジvsイラン=フーシ」へと対立構造が拡大していきます。トランプ大統領の目的が、武器販売拡大なのか、中東地区におけるロシアとの影響力競争なのか、イラン核脅威の封じ込めなのかは正直に言って良く分かりませんが、中東情勢が大きく揺らぎ始めていることだけは間違いなさそうです。

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(出所)EIA

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「アラブ版NATO」の背後にイスラエルの影

Reutersは、トランプ米大統領が中東版NATOの設立に動いていると報じました。トランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)に対しては、加盟国の防衛支出増加を迫るなど強硬姿勢を見せていますが、その一方で中東では「ペルシャ湾岸カ6国およびエジプト、ヨルダンとの間で新たな安全保障・政治同盟の構築を密かに進めている」と報じられています。

「中東戦略同盟(MESA=the Middle East Strategic Alliance)」が仮称になっていますが、事実上はイスラム教スンニ派の結束を強め、シーア派のイランに対抗するための組織と言えます。

対イラン経済制裁の強化、更には中東における米国武器販売戦略などにも絡みそうです。米国営放送VOAは、この背後にイスラエルのネタニヤフ首相の存在があると報じています。イスラエルは安全保障上の観点からエジプトやサウジアラビアなどとの間で関係改善を進めていますが、中東に「スンニ派vsシーア派」の分断を意味する軍事同盟を作ることで、イランの脅威からの安全保障をより強固なものにする狙いがあるようです。対外宣伝機関でもあるVOAが、この件についてイスラエルの存在を(ヒマラヤ登山の案内役・荷物運搬役である)「シェルパ」と評していることからは、もはやその存在を隠す必要はないと考えているのでしょう。

VOA NEWS=Meet Trump’s Envoy-at-Large: Benjamin Netanyahu

これによって直ちに中東情勢が不安定化する訳ではありませんが、イスラエル(ネタニヤフ首相)=米国(トランプ大統領)のラインでイランを経済的にのみならず、軍事的、政治的にも封じ込めようとする政策は、地域の緊張を高めることになるでしょう。追い込まれたイランの暴走リスクが高まります。また、イスラエル、イラン、サウジアラビアなどと友好関係を構築し、中東での主導的役割を果たし始めたロシアの動向も気にかかる所です。
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コスト割れでも続く白金安

コスト割れでも続く白金安
需給よりもドルに注目か

プラチナ相場の低迷が続いている。NYMEXプラチナ先物相場は、1~2月の1オンス=1000ドル台に対して、7月には一時800ドル台を割り込む急落地合になっている。2008年12月以来の安値を更新しており、同年の世界同時金融危機時に付けた最安値752.10ドルも視野に入れつつある。

こうしたプラチナ相場の急落に関しては、必ずしも需給環境と整合性の取れるものではない。例えば、2017年のプラチナ生産コストは世界平均で925ドル、南アフリカに限定すると979ドルであり、現在の価格水準は持続可能なものではない。実際に、南アフリカでは採算性の低いシャフトの閉鎖や、労働者の解雇といった形でプラチナ相場低迷への対応が進んでいる。世界のプラチナ生産高をみても、15年の614万オンスをピークに、今年は577万オンス、来年は564万オンスまでの減少が見込まれており、もはや十分な現在の生産水準を維持するために必要な投資さえ行えていないことが確認できる。

これが、プラチナ供給が過剰な局面で行われているのであれば、何ら問題はない。例えば、電気自動車(EV)の普及、ディーゼル車市場の縮小などで自動車触媒需要が落ち込んでいるのであれば、寧ろ減産対応が必要との見方もできる。しかし実際の自動車触媒需要は、昨年の326万オンスに対して今年は327万オンス、来年は328万オンスと、緩やかな増加傾向にあり、需要環境の急激な悪化は想定されていない。宝飾や投資市場は伸び悩んでいるが、工業関連需要は堅調であり、寧ろ需給タイト感が強まる方向性になっている。昨年が4万オンスの供給不足だったのに対して、今年は38万オンス、来年は23万オンス、再来年は49万オンスと、供給不足幅は拡大する見通しになっている。

ただ、14年以降は需給要因に基づくプラチナ相場の上昇は見送られ続けている。大量の地上在庫が需給システムに還流する流れが構築される中、「供給不足化→価格上昇」という伝統的な需給分析が機能していないためだ。

同じく供給不足化が深刻化しているパラジウム相場は強含みの展開が続き易い状況にあるが、プラチナ相場において需給環境は必ずしも重視されていない。実際にサヤをみてみると、パラジウムは需給ひっ迫懸念から逆サヤ(期近高・期先安)が形成されているが、プラチナは順サヤ(期近安・期先高)であり、パラジウム相場において観測されている需給要因で期近から買い上げていくような動きは確認できない。需給要因に基づく先高感であれば、プラチナよりもパラジウムが基本になる。

ここ数年のプラチナ相場の上昇は、いずれも金価格と連動した値動きになっている。足元では通商リスク、そして米金融政策正常化期待がドルを押し上げ、ドル建て貴金属相場を下押しするサイクルにある。米利下げサイクルの織り込み終了などでドル相場がピークアウトした時が、プラチナ相場底入れのタイミングになる。
(2018/07/25執筆)

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2018年7月30日「私の相場観」

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トルコにおける米国人牧師の収監にみる、トランプ大統領の二元論

トランプ米大統領は、トルコでテロやスパイ罪に問われている米国人牧師について、釈放しなければ同国に対して大規模な制裁措置を発動すると警告しました。


米国では、イランに対する経済制裁回避のためにトルコ人のバンカーが起訴され、有罪判決が下っています。一方、トルコ側では16年10月に米国人牧師が訴追され、拘束されています。こうした両国民を人質にする司法環境を受けて、米国とトルコ間では観光客の規制が行われるなど関係悪化が進み、特に海外資本に依存するトルコにとってはこの問題をどのように処理するのかが重要な問題になっていました。

7月18日にはトルコの裁判所が収監継続を決定しましたが、25日にはこの収監継続の措置が撤回され、自宅監禁に格下げされています。公式には牧師の健康面に配慮したものとされていますが、明らかに米国との関係改善を目指すエルドアン大統領の意向を反映したものでしょう。トルコ側から、関係改善のボールを投げ掛けたのです。

しかし上述のようにトランプ大統領は寧ろ態度を硬化させ、釈放を改めて求め、制裁措置のカードまで一気にテーブルの上に乗せてきました。トルコ側としては一定レベルの「誠意」を見せた恰好ですが、トランプ大統領には通用しなかったのです。

トランプ大統領の判断基準は「ゼロ」か「1」の二つだけであり、仮に米国との関係改善を目指すのであれば、釈放を決定すべきでした。通常であれば今回のような段階的な交渉は間違いではありませんが、トランプ大統領に対しては「0.5」の譲歩案は通用しません。拘束を自宅監禁に格下げするような譲歩案は、トランプ大統領の目には意味がない動きと映っています。トルコリラに対しては、逆に下落リスクを高める動きになってしまっています。

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トランプ大統領の関心は農家世論にシフトしている

米中貿易摩擦は解決の目途が立たない状況ですが、中国政府側の視線は米政府から米農家へとシフトしているようです。トランプ政権との通商交渉に意味があるのか疑問視される中、貿易摩擦のネガティブな影響を最も強く受けやすい米農家をトランプ政権のボトルネックとみて、懐柔に動いています。

例えば、中国中央テレビ(CCTV)の国際放送部門、中国グローバルテレビネットワーク(CGTN)は7月20日、米農家向けに英語のアニメーションをウェブサイト上に掲載し、貿易戦争のダメージを周知させようとしています。

Reuters=アングル:大豆アニメで中国が米農家に直訴、貿易戦争で新戦略

この動きに慌てたのかは定かではありませんが、トランプ政権は24日に米農家に対して120億ドルの直接支援策を打ち出し、国内(農家)世論の締め付けに動きました。

Reuters=トランプ政権、米農家に最大1.3兆円支援 貿易摩擦の影響緩和

そして25日の米欧首脳会合では、これまで強硬な発言を行っていた自動車分野での制裁を見送っていますが、「米国産の大豆や液化天然ガス(LNG)の対EU輸出拡大に向けて交渉を始めること」で、トランプ政権から予想外の柔軟姿勢を引き出すことに成功したようです。トランプ大統領の関心が、欧州に対する攻撃から、中国に対する防御にシフトする中、EUが米国産大豆の調達を拡大し、中国の輸入減少の穴埋めを行うことが、トランプ大統領の心を揺さぶった模様です。

日本経済新聞=トランプ政権、米農家に最大1.3兆円支援 貿易摩擦の影響緩和

以上はあくまでも可能性の議論でしたが、トランプ大統領が中国が「米農家を標的に」していることに強い不満を表明したことで、ここ最近の一連の流れが全て対中国政策だったことが確認できました。表面上は米欧間で自動車分野を巡って対立が観測されていましたが、トランプ大統領の関心事は農産物に傾斜しているのです。

Reuters=トランプ大統領、中国を批判 通商政策で「米農家を標的に」

中国側の米農家を直接ターゲットとした攻撃・懐柔策が有効に機能していることが確認できると同時に、他国にとっては米国産農産物購入が強力なカードとして機能することは明らかです。少なくとも現在は、仮にトランプ政権から無理難題を押し付けられた際には、米国産穀物輸入カードが極めて強力な交渉カードになりそうです。

無題














(出所)CGTN

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物・FX会社の営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。仮想通貨、為替、株価指数などもカバーしています。

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